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第55話 命がけで守る(アスラン視点)
しおりを挟むザイカム中尉たち大使館員たちは、襲撃者とともに慌ただしく大使館に戻っていった。すっかり雨はやみ、昭和荘を臨む東の空も白々と明けてきた。
「トーゴー。あの時ミレンがいるって知ってたから、私の前に出たの?」
雷雨の中の大捕物が落ち着き、トーゴーとアスラン二人だけが残っていた。ずぶぬれのまま、部屋に戻るのが嫌だったわけではないが、すっきりさせたいことが二人ともにあったからだ。
「当たり前だ。あいつが助手席から乗り込んだ時から気付いていた」
車を発進させようとしてた男は、驚く暇もなくミレンの一撃で気絶していた。
「俺が自分の命を投げ出すのは、それしか術がない時だけだ。俺の行動には全て理由がある。なのに、おまえは!」
アスランの肩をぐいっと掴み、今にも殴らんばかりの恰好をする。
「きゃっ! だ、だって……私……」
――――トーゴーが好きなんだから。絶対に、失いたくないんだよっ!
と、続けようとしたが、それは叶わなかった。
「いいか、聞け、アスラン」
なんと、トーゴーの両手が自分の両頬を包み込んだ。それから自分の方へ向けさせる。
――――ひ、ひやあ……、すぐそこにトーゴーの顔が……。
「アスラン、俺はおまえを命がけで守る。それが俺の仕事だからだ。だが、自ら率先して死ぬことはない。何故なら俺が死ねばおまえを守れなくなるからな。だから、おまえが俺の命を心配する必要はない。わかるな」
『命がけで守る』その言葉に嘘はない。彼の黒目勝ちの瞳の中のアスランがこくんと頷く。
「だからなっ。おまえが勝手なことすると、俺が死ぬ目に合うんだよ! わかってんのか。二度と勝手な真似すんな!」
さっと、頬から手を離すと、げんこつで頭にぐりぐりされた。
「い、いてっ……ごめんなさいっ。わかったから!」
痛い、けど痛くない。そんなわけわかんない気持ちがアスランの胸から体中に巡っていく。
好きだと言われたわけじゃない。けど、お互いの鼻先が触れそうになるくらいに接近したあの瞬間。トーゴーの熱い思いが伝わってきた。それだけで胸がいっぱいになった。
「おおい、ああ、無事だったか。良かったぁ」
なんとなくいい雰囲気な二人のところに、よろよろと田中がやってきた。そばには沙知子さんもいる。
「あ……忘れてた。ショウも大丈夫だった?」
アスランは連れ去られる瞬間、田中がスタンガンを当てられるのを見た。殺すつもりはないと判断した彼だったが、忘れていたは酷い。
「忘れてたって……酷いな」
「おまえが無事なのはわかってた。だからむくれるな」
と、トーゴー。ほんとかよと田中は思う。部屋には全く入ってこなかったくせに。
「本当にこんな危ないことがあるんですね……驚きました」
沙知子さんはまだ落ち着かないのか、声が上ずっている。彼女は雷雨で眠れず、隣室の騒ぎに気が付いた。
驚いて廊下に出ると田中の部屋のドアが開けっ放しに。恐る恐る覗くと田中が中で伸びていたというわけだ。
「誘拐です。金目当ての。でももう逮捕しましたからご安心ください」
簡潔に完結させたトーゴー。もしかしたら刑事やマスコミがくるかもと、びびる沙知子だったが、そんなものは一切なかったのは言うまでもない。
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