王子様と一緒。

紫紺

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第57話 沙知子の機転(沙知子視点)

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 土曜日朝の昭和荘に戻る。

 まるでアクション映画か刑事ドラマみたいなあらしの夜だった。けど、目の前では田中とアスラン、それにトーゴーが何事もなかったかのよう楽しそうに話をしている。もうすっかり朝だ。

「とにかく部屋へ戻ろう。シフトまではまだ時間あるしね」
「あ、あの。良かったらウチで朝食でも……」

 沙知子は珈琲とパンくらいしかないのを承知で声をかけてみる。田中の怪我の具合が気になっているのだ。

「あ、ええっと」
「いや、それには及ばない。お気遣い感謝するが、二人を病院に連れて行きたいんでね」

 と、トーゴーにはっきりと拒否されてしまった。

「ああ。そうですね。はい」

 病院と言われてしまえば仕方ない。あとの二人は不満そうになにか言おうとしていたが、それも許されなかった。


 
 ――――ああ、大変な夜だった。でも……。

 沙知子は彼らと別れ、自分の部屋に入るとソファーに寝転がる。眠気があるはずなのに、アドレナリンが放出されてるのか全く眠くない。
 一連の昨夜の出来事が何度も何度も浮かび上がり、その度にまたドキドキと動悸を激しくさせた。


 雷の音が怖くてなかなか寝付けなかった。水を飲もうとキッチンに行くと、雷鳴とともに玄関ドアが開くような音が。

 ――――こんな時間に? 今からバイトなのかな。

 こんな時間でもコンビニは営業中だ。ただ、田中のシフトをしっかり把握している沙知子には、そんなはずはないとすぐにわかった。

 ――――もしかして、トーゴーさんになにかあった?

 反射的にテントを見るが、誰もいないテントは風に揺れるだけだった。すると、廊下で数人の急ぐ足音が聞こえてきた。
 常に聞き耳を立てているからか、沙知子は耳が良い。極め付きはトーゴーの叫び声だった。

『アスラン!』

 ――――な、なにかあったんだ! どどど、どうしよう!

 心の声まで動揺でろれつが回らない。出て行かない方がいいと思いながら、沙知子は田中のことが気になって仕方なかった。
 そっとドアを開けて様子を見ると、案の定、田中の部屋のドアは開け放しになっている。下で人が争っているのが聞こえ、沙知子は恐々アパートすぐ下の狭い駐車場を覗いた。

 ――――な、なにこれ!? なにが始まってるの?

 階段のすぐ下に黒い大型のバンが止まっていた。その周りで、数人の人影が争っている。街路灯とバンのライトしか光源がないため、よくわからない。

 ――――あ、でもアスランさんとトーゴーさんだ。それにもう一人、味方がいるみたい?

 パッと見る限り、こっち側が優勢のようだ。地面にくたばっているのは知らない奴らばかりだった。

 ――――でも田中さんがいない!

 沙知子は踵を返し、開け放たれた田中の部屋に飛び込んだ。



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