59 / 151
第57話 沙知子の機転(沙知子視点)
しおりを挟む土曜日朝の昭和荘に戻る。
まるでアクション映画か刑事ドラマみたいなあらしの夜だった。けど、目の前では田中とアスラン、それにトーゴーが何事もなかったかのよう楽しそうに話をしている。もうすっかり朝だ。
「とにかく部屋へ戻ろう。シフトまではまだ時間あるしね」
「あ、あの。良かったらウチで朝食でも……」
沙知子は珈琲とパンくらいしかないのを承知で声をかけてみる。田中の怪我の具合が気になっているのだ。
「あ、ええっと」
「いや、それには及ばない。お気遣い感謝するが、二人を病院に連れて行きたいんでね」
と、トーゴーにはっきりと拒否されてしまった。
「ああ。そうですね。はい」
病院と言われてしまえば仕方ない。あとの二人は不満そうになにか言おうとしていたが、それも許されなかった。
――――ああ、大変な夜だった。でも……。
沙知子は彼らと別れ、自分の部屋に入るとソファーに寝転がる。眠気があるはずなのに、アドレナリンが放出されてるのか全く眠くない。
一連の昨夜の出来事が何度も何度も浮かび上がり、その度にまたドキドキと動悸を激しくさせた。
雷の音が怖くてなかなか寝付けなかった。水を飲もうとキッチンに行くと、雷鳴とともに玄関ドアが開くような音が。
――――こんな時間に? 今からバイトなのかな。
こんな時間でもコンビニは営業中だ。ただ、田中のシフトをしっかり把握している沙知子には、そんなはずはないとすぐにわかった。
――――もしかして、トーゴーさんになにかあった?
反射的にテントを見るが、誰もいないテントは風に揺れるだけだった。すると、廊下で数人の急ぐ足音が聞こえてきた。
常に聞き耳を立てているからか、沙知子は耳が良い。極め付きはトーゴーの叫び声だった。
『アスラン!』
――――な、なにかあったんだ! どどど、どうしよう!
心の声まで動揺でろれつが回らない。出て行かない方がいいと思いながら、沙知子は田中のことが気になって仕方なかった。
そっとドアを開けて様子を見ると、案の定、田中の部屋のドアは開け放しになっている。下で人が争っているのが聞こえ、沙知子は恐々アパートすぐ下の狭い駐車場を覗いた。
――――な、なにこれ!? なにが始まってるの?
階段のすぐ下に黒い大型のバンが止まっていた。その周りで、数人の人影が争っている。街路灯とバンのライトしか光源がないため、よくわからない。
――――あ、でもアスランさんとトーゴーさんだ。それにもう一人、味方がいるみたい?
パッと見る限り、こっち側が優勢のようだ。地面にくたばっているのは知らない奴らばかりだった。
――――でも田中さんがいない!
沙知子は踵を返し、開け放たれた田中の部屋に飛び込んだ。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~
天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。
「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」
「おっさんにミューズはないだろ……っ!」
愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。
第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる