王子様と一緒。

紫紺

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第60話 我が儘(アスラン視点)

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 その日の夕方、田中は昭和荘に戻れたが、アスランは1日入院することになった。大事を取ってということらしい。

 ――――僕は大事を取らなくてもいいってわけか。ま、そりゃそうか。

 と、田中は当然そう思ったことだろう。



「ショウは本当に大丈夫だったの? 彼も1泊すればいいのに」

 特別室の豪華なベッドで、アスランは体を起こしている。病衣に身を包んではいるが、煩わしい点滴は先ほど終わり、ようやく自由に動けるようになっていた。

「美味しそう」

目の前には果物やプリンが置いてあった。大使館員の誰かが気を利かせたのだろう。アスランはシャインマスカットを一粒口に放り込む。

「そんなわけにいくか」

 戸口近くに仁王立ちしているトーゴーが応じた。外にも警護の人間が立っている。襲われたばかりの王子に対する警護としては、当然だろう。

「おまえ、少しはしゃぎ過ぎだ。襲われたんだぞ」

 トーゴーの言葉にアスランは首を竦めた。検査中も、ずっと何かしら田中に話しかけていた。アスランにも身に覚えがある。

「うん。わかってる。その……気を紛らせていたのもあるよ」

 ――――本当のところは、嬉しさの方が勝っていたんだけどね。ミレンのこともだし、トーゴーと気持ちが通じたような気がして……。

「それはわかる。だが、ショウを帰したのは他でもない。おまえの今後を決めないといけないからな」

 ――――ああ……やっぱりそうなるか。

 アスランは何も言わず、布団をギュッと握った。そう、それは彼が恐れていたことでもある。

「私は……まだ夏休み中だ」
「わかってる」
「それに、帰国はまずいんじゃないかな。今回の襲撃。兄上でないとすると……」

 トーゴーは何も言わずに頷いた。その後に続く言葉は、敢えて言わないようにするが、二人には共通理解があった。

 ――――叔父である、王位継承権三位のフェリプス殿下

「おまえの気持ちもわかるが……ショウの気持ちは無視できないだろう? あいつも危ない目にあったんだ。おまえとの同居は嫌だと言っても責められない」
「それは……そうだけど。やっぱり、難しいかな。私は、昭和荘が好きなんだ。ショウと沙知子さんと、それに大貫さんもいる……ミレンもいるじゃないか。彼がいれば……」
「あいつはジョルジュ王子の指令で動いている。今回のことで帰国も大いにあるからな」
「そ、そうか……」

 ふうっと、一つトーゴーは息を吐く。田中の部屋やアパート周辺にカメラやセンサーを取り付け、ガードを強固にする。
 それと……大使館側にスパイがいるなら、そいつを炙り出す必要がある。アスランが残るには、この二つは絶対必須だ。

 ――――タイミングよく、ザイカム中尉が大使館入りした。リヨン大佐が派遣してくれたのだが、大使館の方を彼に任せられるのは大きい。

「トーゴー……私は我が儘かな……でも、ここでの生活は、多分私の人生で最も大切で忘れてはならない日々になる。そう思ってるんだ。ここで離れるのは……耐えられない」

 さっと顔を上げたアスランのサファイアの瞳から、まるで泉から湧き出る聖水のような涙がこぼれた。

「アスラン……そうだな。おまえは我が儘だよ」
「トーゴー……」

 ぐすんと鼻を鳴らす。トーゴーは仕方なさそうにベッドの端に座ると、ティッシュで涙を拭いてやった。

 ――――でも、そんな我が儘なところも、俺は惹かれて仕方ない。

「大丈夫だ、アスラン。おまえの我が儘を聞くために俺がいる」
「トーゴー!」

 思わず飛びつこうとするアスランだったが、いつものように人差し指一本で阻止されるのだった。




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