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第61話 シンパシー(ミレン視点)
しおりを挟む田中とアスランが某有名人御用達病院でぐるぐる検査を受けているころ、ミレンは鯉のいる公園でぼんやりしていた。
ここにやって来たのは夕方になってからだ。午前中は彼の主であるジョルジュ王子と電話会談をし、今後のことを決めていた。
『そうか。ではやはり、アスランは叔父上と計っているようなことはなかったんだな。安心したよ』
ジョルジュ王子は王位継承第1位の王太子だ。アスランのように感情だけで物事を決めることはできない。それはミレンも理解していた。
『どうする? 一度帰国するか?』
アスランが敵対しないのであれば、監視する必要はない。ジョルジュの懸案の一つは解決したのだ。
『いえ。今、アスラン様は日本の民家、しかもセキュリティー上問題のある場所におられます。トーゴー一人では荷が重いのではと思いますので』
『そうか。そう言ってくれると思っていた、では、悪いが引き続きよろしく頼むよ』
ジョルジュ王子は安堵の笑みを浮かべている。彼のもう一つの懸案、アスランの安全だ。トーゴーを信頼しているが、ミレンが付いていればなおの事安心だ。
『はっ。命に替えましても』
残暑厳しい日本だが、池の周りには大きな樹々が茂っていて涼しい。夕刻になればなおさらだ。いつか、大貫がしていたように、柵に凭れて泳ぐ鯉を眺めていた。
「あ……あなた、昭和荘の……」
どこかで聞いた声だ。背後から人が近づいていたのはわかっていたが、殺気も何も感じなかったので無視していた。
「あ、成田さん……いつぞやは失礼しました」
「え? あら、それは全然。でも、いつぞやなんて、面白い日本語ご存じなんですね」
成田はミレンの隣に並ぶと、そう言って笑った。
「面白いでしたか。いやあ、よくわかってなくて……今日はお休みですか?」
いつもスーツを鎧のように着こんでいる成田だが、今日はグレーのTシャツにパンツといったラフなスタイルだ。
ミレンは薄手のジャケットにデニム、ジャケットの下には銃を忍ばせていた。
「ええ。土曜日ですから」
「ここへは散歩ですか? 涼しいですよね」
彼女と会話をしたいわけではなかった。ただ、苦痛じゃないし、一人でぼんやりしていてもつまらない。そんな感じで話を続けた。
「ああ、いえ。まあ、これも仕事の一環です。下見を兼ねての……」
「え? 成田さんはテレビ局や映画会社にお勤めですか?」
成田は小さくため息を吐いた。
「いえ。そういうんじゃないんです。私は区役所に勤めてて……担当が、若い方の出会いや結婚を支援することで……まあ、ここもその、イベントの場所というか」
「んん? 成田さんも十分若いですよね? あ、そうか、同世代の方が気持ちがわかるからいいんですよね。先進国では出生率が低下していると聞きます。素晴らしいお仕事じゃないですか」
ミレンとしては、それがまさか、彼女に対する(少なくとも彼女にとって)屈辱的な人事とは思いも寄らない。本心からそう応じた。
「はあ……まあ、そうかもしれませんね」
明らかに憮然とした様子だ。そのまま話を切り上げ、その場を立ち去ることもミレンには出来た。だが、何故かそうしなかった。
ミレンの心も今、少なからず傷を受けていた。同じように傷跡を隠そうともしない成田に、どこかシンパシーを感じたのかもしれない。
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