王子様と一緒。

紫紺

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第64話 ミステリと恋愛小説

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 検査の結果、特に悪いところはなかった。
 思いもかけない健康診断になって、災い転じて福となるみたいな感じだ。ニートみたいな僕は、健康診断なんて受けてるはずがない。


「言ってなかったが、迷惑をかけてすまなかった。怪我をさせたのは俺の責任だ」

 翌日、無事に退院して戻ってきたアスランとトーゴー。アスランが沙知子さんのところに行ってる間、トーゴーが僕に頭を下げてきてギョッとなった。

「え……ああ、いや。僕もこんなことがあるなんて思ってなかったから、驚いた」

 トーゴーに謝ってもらうつもりはなかったが、あのスタンガンが拳銃だったら、僕はこの世にいない。健康診断どころじゃなかった。

 ――――そう考えると恐ろしいな。

 意外にも僕は能天気な人間なのか。いや、あまりにも非現実的過ぎて実感がわかないんだ。

「今後はこのようなことがないようするが……アスランとの同居は中止してもいいんだ。あいつには俺が言い聞かせるから気にするな」
「あ……そうか」

 確かに、アスランがなにかの組織? に狙われていることが証明された。
 ラメリアとしては、『日本文化』や『庶民の生活』とか呑気なことを言ってる場合じゃないだろう。けど、それで本当に解決なんだろうか。

「アスランはなんて言ってるんだ?」
「あいつは……希望としては、このままここに滞在していたいようだが……」

 困ったような表情をトーゴーが見せる。なんだからしくない……。

「じゃあ、いいよ。トーゴーがしっかり守ってくれるんだろ? 僕も今後は気を付けるよ」
「そう……か? このアパートのセキュリティーは即日頑強にする……もちろん俺も万全を期す」

 あれ、随分あっさり引いたな。アスランの希望には逆らえないってことかな……。

 ――――ま、残り半月ほどだ。今回の失敗で、その悪の組織もそうそう手を出さないだろう。

 などと、僕は自分勝手に楽観した。

「了解。引き続き、よろしく頼むよ」

 トーゴーは力強く顎を引き、頷いた。



『大丈夫ですか? 田中さん!』

 トーゴーが去った後、僕はもう一度、あの恐怖の深夜を思い出していた。能天気な自分を諫めるためでもある。

 ――――そう、身体が痺れて動けない時、沙知子さんの声が聞こえたんだ。

 深夜にも関わらず、僕の部屋に飛び込んできてくれた沙知子さん。ミレンが僕の無事を確認したとのことだが、僕にしてみれば、彼女が助けてくれたと言っても過言ではなかった。

 ――――アスランは、トーゴーは、一体どうなってる?

 痛みよりも動けないことの焦りで僕はいっぱいいっぱいになっていた。アスランが殺されたらどうしよう、トーゴーは気付いているのか。知りたいのにどうにも出来なかったんだ。

 そこに彼女が現れた。まず部屋の電気をつけてくれたことで、暗闇から救ってくれた。

『ア、アスランが……』
『大丈夫です。今、下でトーゴーさんが大暴れしてます』

 ああ、トーゴーがいれば大丈夫だ。か、どうかは本当のところわからないのだけれど、安心感は半端ない。僕はこれで勝った気でいた。

『もう一人、味方がいましたし』

 これは後でミレンとわかるのだけど、僕は別のSPだろうと思っていた。ひとまず安心したら、自分の痛みが勝って来た。
 すると、それが伝わったのか、彼女が保冷剤をタオルに包んで持ってきてくれた。

 優しいし思いやりのある人だとずっと思っていたけど、今回ほど強く思ったことはなかった。体の痛みも心の不安も、随分と救われた。
 ひょっとすると、あまり深刻になれないのは、そのせいかも?

 ――――やっぱり、僕は沙知子さんが好きなんだ。彼女が高校生の時は、そんなふうに思わなかったけれど……。

 意識しだしたのは、大学生になって、管理人代理として引っ越してきた頃だろう。随分と大人びて綺麗になったと思ったんだ。

 けど、僕にはこの気持ちをどう処理していいのかわからない。ミステリのトリックも苦手だけど、恋愛小説だって一度も書いたことがないんだ。

 トリックと言えば、トーゴーにも突拍子なさ過ぎると言われたことを思い出す。どっちも僕にはうまく表現できないのかもしれない。



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