68 / 151
第66話 失礼な後輩
しおりを挟む僕がコンビニで『キノコの山の誓い』を立てた日、さらにその思いを強くする出来事があった。こういうネガティブな現象って続くものだな。
今までが無風過ぎたのか、僕が呑気過ぎたのかはわからないけれど。
「田中さんって、僕の先輩だったんですね」
アスランと一緒にアパートに帰ってきた時、たまたま階下に住む大学生と出会った。名前は確か、中垣内だったかな。
彼の言う通り、学部は違えど僕が卒業した大学に在学中の後輩だ。ひょろっと背の高い青年で、見た目は悪くない。若いしファッションに気を使っているんだろう。本日は半袖の黒っぽいシャツを着ていた。
「先輩と言っても、卒業したのは随分前だよ」
このアパートから母校は近い。僕が入居したころは、上級生や同級生がいたのだけれど、みんな卒業とともに当然出て行った。そして、現在は彼一人だけだ。
「先輩は就活、されましたか? 実は僕、秋から本格的に始めようと思ってまして」
ということは、3年生か。
「ああ……いや。残念だけど、僕ではなんのアドバイスも出来ないや。僕はインターンも就活も全くやらなかったから」
「ええ! そうなんですか。就活くらいはされたかと、今はニートでも……あ、すみません」
わざとかよ。僕がコンビニでバイトしてることだって、こいつは知ってるはずだ。何度か店で見かけたこともある。僕がじろりと睨むと、さすがに慌てていた。
――――それが自分の母校の先輩と知ってガッカリしたってか?
大学は偏差値が高い有名大学で、学部にはよるけど就職先も選り取り見取り。そんな卒業生がコンビニバイトをしている。なにか理由でもあるのかと思ったのか。
「失礼だね。あなた。ショウはこう見えて……」
「アスラン! いいからっ」
何を言い出すつもりなのか! まさか小説家を目指しているとか、なんとか? や、やめてくれ! 僕は慌ててアスランの腕を引っ張った。
「あれ? この外人さんですよね? 同居されてると沙知子さんに……イケメンだなあ。あ、まさかっ、先輩……」
くくっと、口の前に手を当て含み笑いをする。なにか変な想像をしているのは言わずもがなだ。さすがにこれは僕も無視できない。
「まさかってなんだ? 彼は僕の友人だけど? 日本で強盗に遭って財布やら盗まれたんで、少しの間間借りさせてるだけだよ」
「あ、ああ。はい……そうでしたか」
「そういうことだよ。じゃ、就活頑張って」
僕は憮然とするアスランの背中を押して、アパートの階段を上る。中垣内もこれ以上は絡むつもりがないのか、さっさと踵を返した。
「ショウ、ごめん。私がいることで、誤解を……」
「気にしなくていいよ。そんな誤解するヤツ、あいつしかいないよ。僕のことを貶めたいんだ。有名大学出たのに、就職も出来ず、ボロアパートにいつまでも居座ってるってさ」
全くもってその通りだから仕方ない。
「就職出来ないんじゃなくて、しなかったんじゃないか」
どういうわけか、アスランが反論する。まあ、そうだけど……。
――――考えてみれば、僕は就活の煩わしさや怖さから逃げただけだったんじゃないか。それを、作家になるなんて夢みたいなことで誤魔化して。
「でも、結局今もまだバイト君だよ。だらだらと続けて、アラサーだ」
アスランは、まだなにか言いたそうにしたけれど、僕は無視して部屋に入る。西日の入る部屋は、行き場のない残暑の熱気が充満し、卑屈な気分の僕を押しつぶしそうだ。
――――あと1年。やれるだけやろう。それで結果が出なければおしまいにするんだ。
キノコの山と、この蒸し暑い部屋に誓って。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~
天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。
「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」
「おっさんにミューズはないだろ……っ!」
愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。
第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる