王子様と一緒。

紫紺

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第66話 失礼な後輩

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 僕がコンビニで『キノコの山の誓い』を立てた日、さらにその思いを強くする出来事があった。こういうネガティブな現象って続くものだな。
 今までが無風過ぎたのか、僕が呑気過ぎたのかはわからないけれど。

「田中さんって、僕の先輩だったんですね」

 アスランと一緒にアパートに帰ってきた時、たまたま階下に住む大学生と出会った。名前は確か、中垣内だったかな。
 彼の言う通り、学部は違えど僕が卒業した大学に在学中の後輩だ。ひょろっと背の高い青年で、見た目は悪くない。若いしファッションに気を使っているんだろう。本日は半袖の黒っぽいシャツを着ていた。

「先輩と言っても、卒業したのは随分前だよ」

 このアパートから母校は近い。僕が入居したころは、上級生や同級生がいたのだけれど、みんな卒業とともに当然出て行った。そして、現在は彼一人だけだ。

「先輩は就活、されましたか? 実は僕、秋から本格的に始めようと思ってまして」

 ということは、3年生か。

「ああ……いや。残念だけど、僕ではなんのアドバイスも出来ないや。僕はインターンも就活も全くやらなかったから」
「ええ! そうなんですか。就活くらいはされたかと、今はニートでも……あ、すみません」

 わざとかよ。僕がコンビニでバイトしてることだって、こいつは知ってるはずだ。何度か店で見かけたこともある。僕がじろりと睨むと、さすがに慌てていた。

 ――――それが自分の母校の先輩と知ってガッカリしたってか?

 大学は偏差値が高い有名大学で、学部にはよるけど就職先も選り取り見取り。そんな卒業生がコンビニバイトをしている。なにか理由でもあるのかと思ったのか。

「失礼だね。あなた。ショウはこう見えて……」
「アスラン! いいからっ」

 何を言い出すつもりなのか! まさか小説家を目指しているとか、なんとか? や、やめてくれ! 僕は慌ててアスランの腕を引っ張った。

「あれ? この外人さんですよね? 同居されてると沙知子さんに……イケメンだなあ。あ、まさかっ、先輩……」

 くくっと、口の前に手を当て含み笑いをする。なにか変な想像をしているのは言わずもがなだ。さすがにこれは僕も無視できない。

「まさかってなんだ? 彼は僕の友人だけど? 日本で強盗に遭って財布やら盗まれたんで、少しの間間借りさせてるだけだよ」
「あ、ああ。はい……そうでしたか」
「そういうことだよ。じゃ、就活頑張って」

 僕は憮然とするアスランの背中を押して、アパートの階段を上る。中垣内もこれ以上は絡むつもりがないのか、さっさと踵を返した。

「ショウ、ごめん。私がいることで、誤解を……」
「気にしなくていいよ。そんな誤解するヤツ、あいつしかいないよ。僕のことを貶めたいんだ。有名大学出たのに、就職も出来ず、ボロアパートにいつまでも居座ってるってさ」

 全くもってその通りだから仕方ない。

「就職出来ないんじゃなくて、しなかったんじゃないか」

 どういうわけか、アスランが反論する。まあ、そうだけど……。

 ――――考えてみれば、僕は就活の煩わしさや怖さから逃げただけだったんじゃないか。それを、作家になるなんて夢みたいなことで誤魔化して。

「でも、結局今もまだバイト君だよ。だらだらと続けて、アラサーだ」

 アスランは、まだなにか言いたそうにしたけれど、僕は無視して部屋に入る。西日の入る部屋は、行き場のない残暑の熱気が充満し、卑屈な気分の僕を押しつぶしそうだ。

 ――――あと1年。やれるだけやろう。それで結果が出なければおしまいにするんだ。

 キノコの山と、この蒸し暑い部屋に誓って。


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