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第67話 セキュリティー会議(トーゴー視点)
しおりを挟む田中明夫が人生何度目かの誓いをキノコの山なんかに立てていたころ、トーゴーはミレンや他の王室警備の面々と打ち合わせをしていた。
と言っても、会議室でやってるわけではない。昭和荘の屋上や周辺、大使館にある情報処理室等など、各々の持ち場から意見交換をしている。
「センサーの具合はどうだ」
屋上のいつもの場所で、トーゴーが尋ねた。
『良好です。今、帰宅されたのもバッチリです』
今回、昭和荘のセキュリティーの甘さを突かれ、堂々と部屋に入られてしまった。これはトーゴーにとって大きな失態だ。
雷雨激しい夜だったとしても、侵入されたなどあってはならないこと。初めから殺す目的だったら、間に合わなかった。
「まどろっこしいことしないで、トーゴーも一緒に住めばいいんじゃない?」
屋上にはミレンもいた。彼らのやり取りを聞きながら、アスランの護衛に協力しているわけだ。
「それはアスランが希望するところじゃない。今の環境が気に入ってるようだからな」
「へえ、やっぱりね」
訓練生の頃は鬼のような厳しさだったのに、アスランには甘々だ。
「あ? なにがやっぱりだ」
憮然とした表情をこちらに向ける。サングラスに太陽の光が当たり、きらりと光った。
――――ちぇっ……なんでこんなにカッコいいんだよ……。
「なんでもないですよ。いえ、王子様のご機嫌は大事ですもんね」
「なに言ってんだ。変な奴だな」
ミレンの言いたいことはわかる。自分だって、部屋に同居して護衛できたらどんなに助かるか。それは、護衛だけではない喜びでもあるが。
「変ですかね。そう言えば……トーゴー、大使館のスパイの件はどうなりました? いないと信じたいですけど」
「それはザイカム中尉に依頼済みだ。彼のことだから、いればすぐにも炙り出してくれるだろう」
「ああ、なるほど……彼ならまあ、適任でしょうね。なんか、タイミングいいですね」
なんの気なしに放たれた言葉ではあった。ミレンもあまり考えもせずに言葉にした。
――――タイミングがいい……か。
「でもトーゴー、さっきの話に戻りますけど、もしアスラン様が望めばどうするんですか? 一緒に部屋で守って欲しいと」
「ああ? なんだ、またそっちに戻るのかよ」
なにかに引っ掛かった気がしたが、トーゴーの意識は再び『そっちの話』に移った。
――――ホテルであっても、王族と同じ部屋に寝泊りするようなことはしない。最低限、彼らのプライバシーを守らなければならないんだ。そんなこと、ミレンだって重々承知だろうに。
ホテルなどの部屋に警護対象者がいる場合、部屋の中、周り、窓などを調べ、ドアの前で待機する。それが普通の手順だ。緊急事態となれば、それも変わるだろうが……。
「アスランが望む? あいつがそんなこと、言うはずがない。今までだって一度もないしな」
トーゴーは鼻で笑った。ただ今までは、命を狙われるような恐ろしい目に、遭ったことがなかった。だから、日本で自分を撒くなど愚かな行為が出来たわけだ。
――――けれど……その恐ろしいことがあの夜起こったんだ。
『いやだ! トーゴーになにかがあったら、私は生きていけない!』
アスランはあの時、誘拐犯の拳銃から自分を守ろうとした。あり得ないことだ。王子に守られる護衛とか話にならん。
――――全く、なにを考えてるのか、あのアホは。
トーゴーはアスランの行動の理由をよくはわかっていなかった。あの時のアスランの涙を溜めた双眸に、心がざわりとしたけれど。
「でも、今回のこともそうだけど、危険が迫っていたら?」
なおもミレンは畳みかけた。トーゴーは面倒そうに右手を振る。
「しつこいな。そりゃ、一緒に過ごしてやるさ。王子様の命令は絶対だからな」
――――命令か……それがあれば俺はいつだって、おまえのそばを離れないのに。
ふと触れる柔らかいアスランの金髪。今も指に残っている。また胸の中でざわりと何かが蠢いた。
――――馬鹿な。こんなんじゃ、そばにいてもまともに護衛できん。
急いで首を振る。その様子を、ミレンは静かに見つめていた。
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