王子様と一緒。

紫紺

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第68話 婚活イベント(成田視点)

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 8月の最終日曜日、昭和荘の所在区(つまり成田が勤務している区)が主催の夏祭りがある。区が主催なので界隈では最大級の祭りだ。
 この一大イベントを、出会い・結婚支援室が見過ごすはずはない。4月からこのイベントに向け、様々なアクションを起こしてきた。

 『夏祭りに一緒に過ごす人を見つける』が、婚活イベントの影の最終目標なのだ。成田がミレンと会った例の公園(正式名称は鯉の池公園という)は、夏祭りのメイン会場となる。


「それでは、皆さま、正面の方と自己紹介を初めてください。3分しかないので、遠慮してはだめですよ!」

 司会者の女がけしかける。身ぎれいにした男女が向かい合い、自己紹介を始めた。3分経ったら次の人、次の人、と席を移動して自己紹介をするのだ。

「どうでしょうね。成田さん」

 手持ち無沙汰になった司会者が成田に話しかける。今回のお見合いパーティーは区内にあるお洒落なイタリアンレストランで行われている。自己紹介タイムが終れば、歓談しながらの立食ランチとなっていた。季節が季節なので、夏場はどうしても屋内でのイベントが多くなる。

「ああ、ええっと。二組ぐらいは成立するんじゃないでしょうか」
「私はもっといくと思ってます。夏祭りまでの最後のイベントですから、みなさん、是が非でもお相手が欲しいでしょう。特に女性陣が殺気立ってます」

 と、ウインクをしてみせた。殺気立ってるかは別にしても、室長の岡部が言うには、夏祭りとクリスマス前にはカップル成立率が上がるらしい。

 ――――そういう安易な理由でくっつくなら、終わった途端に破局しそうだけど。

 と、成田の心の声。そしてそれは、紛れもない事実だった。

「成田さん、こんにちは」

 食事を取りながらの歓談。あちこちで会話の花が咲いている。
 成田や支援室の担当者は、独りぼっちの人がいないか目を配り、居たらさりげなくどこかの輪に入れ込む。という、実に骨と心が折れる作業を強いられていた。

「あ、はい。ええっと、下川さんでしたね。あの、なにか……」

 さっきまで誰かと歓談していたはず。なにか不満でもあったのだろうか。
 下川は支援室の婚活イベントに何回か参加していた、30代の会社員だ。身長も高く小ざっぱりした感じで、イベントではモテる方。だが、いつもマッチングはできなかった。

「いえ。いつも大変だなあと思ってまして。このレストラン、僕も一度行ってみたいと思っていましたので、喜んで参加しちゃいました」
「あ、はあ。そうでしたか。それは良かったです」

 でも、自分と話してちゃだめだろうが。と、成田心の声。

「ここは料理もですが、店内に飾られた絵や花も素敵だ」
「あ、ご興味ございますか」
「ええ、でも、誰の作品か、とか花の名前とか、全然わかんないですけどね」

 下川は『ハハハ』と元気よく笑った。

「夏はどうしても生花が高くなりますが……店長さんが自ら仕入れて飾られてるそうですよ。クルクマやアガパンサスのような涼し気な花が多くていいですね」
「お、成田さんはお花に詳しいんですね」
「いえいえ、普通です」
「さぞかし、家やお部屋には綺麗な花が飾られているのでしょう」
「それは……」

 成田はそこで口を噤む。花は幼い頃から心惹かれるものがあった。昭和荘に越してきた頃は、ベランダに花を育てていたこともある。

 ――――けど今は、生活に忙殺されて……なにもない。ミレンさんにもらった花も枯れてしまった。

「さあ、みなさん、お席にお戻りください。お待ちかね、ビンゴ大会です!」
 司会者の女が、また天井に届くかのような甲高い声で叫んだ。
「あ、じゃあ……」
「はい。今日こそお相手が見つかると良いですね」

 成田は作り笑顔で下川を送り出す。下川は苦笑するように顔を歪め、席に戻っていった。



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