王子様と一緒。

紫紺

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第69話 浴衣を買いに

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 そろそろこの地区最大の夏祭りだ。と言っても、プライベートでなにかあるわけではない。アスランがポスターを見て、凄く興奮してたけど。

「僕たちは仕事で忙しいよ」
「えええっ! そ、そんなっ」

 と、混じりけのない悲痛の叫びをあげた。当日はコンビニもお祭りに訪れたお客さんでごった返すんだ。バイト総出で当たるしかない。

「まあ、本社から応援くるし、前半だけで許してもらえるよう店長に話してやるよ」
「おお! お願いしますっ」

 と、両手を合わせ拝み倒す。なんかもう、そのまんま日本人みたいだな。

 ――――僕は通しでやるつもりだから、アスランは前半だけで大丈夫だろ。折角楽しみにしてんだもんな。



「浴衣を買いたいんで付き合ってよ」

 ということで、アスランがこんなことを言い出した。

「僕が? 浴衣なんて買ったことないからわかんないよ。トーゴーと行けば?」
「あ、あいつに柄とか見られたくないんだよ。買い物は内緒に出来ないけどさ……」

 なるほど、そういうことか。まあ、こいつの健気? な恋心はわからんでもない。

 ――――しかし、浴衣についてなんも知らんのは紛れもない事実だし……。

「高級品じゃないので良ければ、〇オンに男性用浴衣ありますよ。僕もちょうど行きますので、一緒に行きましょう」

 そう言ってくれたのは、誰あろう、大貫さんだ。沙知子さんに相談したら、大貫さんは毎年夏祭りのイベントで縁台将棋に参加しているとのこと。

『毎年、浴衣で来られてますよ』

 それなら、この手を使う以外にない。相談したら、快く同行してくれることに。やはり、王子様というのは、星のめぐりも手に入れているのか。

「そうそう、大貫さん、もう棋士が目の前じゃないですか! 凄い!」

 駅前のモールに行く道すがら、僕は大貫さんがあと1勝で四段昇段、つまりプロ棋士になれることを祝った。いや、祝うのはまだ早いかもしれないけど。

「あ、ああ。ありがとうございます。でも、まだわかりません。最終局は2週間後なんですが、残りの二人は強敵です……だからこそのあと1勝なんですよ」
「そうでしたか」

 それは僕も気付いていた。大貫さんと併せてこの3人が上位争いをしているんだ。だから、負けは昇段争い敗退そのものを意味する。3人ともプロ入りを賭けての大一番なんだ。

 ――――厳しいよな……やっぱり。

「大貫さんなら大丈夫だよっ。でも、もしかして眠れてない?」

 能天気にアスランが言ったが、確かに彼が言うように、大貫さんの両目は充血しているように見えた。

「あ、うん。パソコンで棋譜の整理や対局をしてるんだけど、どうしてもね。もっと平常心にならないといけないのに」

 僕は少し考える。平常心で戦わなければならないのは当然だ。緊張しすぎたり興奮したりは対局に良くない影響を与えるだろう。素人ながらそんな気がする。奨励会の三段リーグは、確か持ち時間も短い。

 ――――でも……。無理に平常心と思えば思うほど、緊張しそうな気がするな。

「あれ? 皆さん、お揃いですね」

 ショッピングモールに着き、浴衣売り場に足を運ぶ。なんとなくぼんやりアスランたちの後ろを付いていた僕は、その声で初めて気が付いた。

「え? な……なんで?」

 浴衣売り場に、ミレンと成田さんが顔を揃えていたんだ。



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