王子様と一緒。

紫紺

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第70話 ご近所コミュニティ

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 駅前のモールにある浴衣売り場。どういうわけか、昭和荘の面々が集っていた。
 僕とアスラン、それに大貫さんは一緒に来たから当然なんだけど、何故か目の前にはミレンと成田さんが。トーゴーは姿は見えないけど、どうせそこらへんにいる(彼はアスランに購入したモノは見るなと言われているはずだ)。

「ミレン、これは一体どういうこと?」

 アスランは素で驚いている。まあ、そうだよな。僕も普通に驚いている。背後でトーゴーも驚いていることだろう。

「ミレンさんが、日本文化について研究されているとのことで……浴衣を着てみたいと言われるので」

 と、成田さん。いや、聞きたいのはそういうことでなくて……。

 ――――もしかして、花束作戦がうまくいったのかな? 

 ミレンとしては、アスランが兄上であるジョルジュ王子と敵対していないことが分かった。叔父のフェリプス殿下と通じてないことが判明したので、任務はひと段落したのかもしれない。
 ということで、成田さんとの仲を発展させようってことか? うーむ、こいつも可愛い顔して隅に置けない! いや、可愛い顔してるからこそか?

「成田さんに夏祭りの話を聞きまして。私も欲しくなったもので、付き合ってもらいました」

 付き合ってもらったじゃないよ。全く……。なにしに日本に来てんだ。

「あ、そうだ。ミレンさん。彼、大貫さんはご存じですか?」

 照れ隠しなのか、成田さんはキョトンとしている大貫さんに突然話を振った。

「え、いや。初対面で……。田中さんの隣に越してらした方ですか?」
「ええっ。はい。ミレンと申します。御挨拶が遅れまして」

 と、こちらも最早日本人としか思えないような対応だ。ミレンはこのひと月で、各段に日本語が上達した。

「ミレンさん。大貫さんは日本文化、独自と言ってもいい、将棋のプレーヤーなんですよ。もう、プロ目前のっ」

 隣に立つ大貫さんがピクリとした。成田さんも今現在の大貫さんの状況を知っているのだろうか。これはむやみやたらにプレッシャーを受ける展開に……。

「おお、そうでしたか。ええと、ショウギ」

 今度はミレンが狼狽えてる。おまえ、自分が日本文化を研究してるってこと、忘れてんじゃねえの。能や歌舞伎専門と言っても、相撲や将棋は成田さんが言う通り、日本独自の文化だよ。

「将棋というのは、チェスと似たボードゲームですね。私もチェスは得意ですが、将棋はやったことがありません。大貫さん、よろしければ話を聞かせてもらえませんか?」
「え……はい。それは構いませんが。僕はまだ一介のアマチュアに過ぎませんし……」
「ミレン、彼は今、対局の準備で忙しい時期なんだよ。無理言っては……」

 そうアスランが、ミレンに窘めようと口を挟んだ。んだけど。

「あ、いえ。普及も僕ら奨励会員の重要な仕事なんです。だから、今度の夏祭りのイベントにも縁台将棋で参加するんで」
「あ。そうなんだ? じゃあ、私も見に行こうかな。いい刺激になりそうだ。成田さん、どうですか?」
「わ、私は仕事中なので……でも、覗きに行かせてください。他の方にもアナウンスしてみます。縁台将棋って将棋知らない方でも大丈夫なんですよね?」

 成田さん、仕事中? 確か区役所にお勤めだったような。終わってからってことかな。

「それは是非! ええ、もちろん。駒の動かし方から教えます。鯉の池公園でやるし、他には本物の棋士も来ますよ!」

 大貫さんがぱあっと明るい笑顔になった。やっぱり将棋の話となると嬉しいんだよね。それにもしかしたら、参加者のノルマとかあるのかも。

「それなら私もトーゴーと行くよ。あいつ、将棋は指せるみたいだし」

 と、アスラン。トーゴーが将棋指せるとは初耳だ。

「僕もコンビニ終わり次第行こうかな。間に合ったらの話だけど」
「よろしくお願いします。後で、ポストにチラシ入れておきますね」

 思わぬ場所とコトで、昭和荘の住人達にコミュニティーが出来上がった。
 今まで顔も合わせないような間柄だったのに、突然のご近所ムーブ。悪いことじゃないだろう。これもアスランやミレンがやってきたお陰かもしれないな。


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