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第73話 空の青と二人の出会い(アスラン視点)
しおりを挟むトーゴーが夜中に部屋にやってきた時。アスランは薄っすらと目を覚ましていた。
大貫と話したからか、田中が俄然やる気を出してパソコンに向かっているのに、全く相変わらず空気が読めない。なんてうつらうつらしながら思っていたのだが。
『おい、ショウ。アスランはどんな浴衣買ったんだ』
なんて言い出すので、思わず声が出そうに。急激に覚醒したアスランは聞き耳を立てながら寝たふりをした。
『祭りの日のお楽しみだろ? なんだよ。そんなこと気になるのか?』
問うたのは田中だけれど、本人よりもはるかにトーゴーの答えが気になるアスラン。ドキドキしながら答えを待った。
『そ、それは……護衛するのに柄がわからんとだな……』
『アパートから一緒に出れば関係ないだろ』
と、けんもほろろに言われてしまう。アスランも同じことを叫びそうになったので、間一髪、田中のおかげで狸寝入りがバレずに済んだ。
――――トーゴー、もしかしてマジで私が買った浴衣の柄、気になったのかな。いや、まさか。でもそんなの気にするって変な話だよな?
トーゴーが護衛以外で自分に興味を持つのは、アスランにとってはあまり経験のないことだ。あいつの頭の中は任務しかないと思っている。
――――でも、あの連れ去り事件があった時、トーゴーに自分の気持ちが少しでも伝わったんじゃないかって。そう思ったんだ。
頭をゴリゴリされたことすら嬉しかった。任務以上のものを感じ取った気がした。
『アスラン、彼らが我が国を守らんとする若者たちですよ。志高く、日々鍛錬しているの。よく御覧なさい』
母の声がする。アスランは布団の中で、遠いあの日を思い出した。まだ高校生だったアスランは、家族とともに公務の一環として、若い訓練生たちの活動を視察に出かけていた。
海岸沿いの美しい砂浜と港町。バカンスの時期なら観光客でにぎわう場所だが、その頃はまだこの地方でも肌寒い頃。
訓練生たちはビーチでランニングしたり、ボートを使っての訓練をしたりと脇目を振らず動いていた。
「カッコいいわねえ。ねえ、アスラン」
姉たち二人はキャッキャッと体を寄せ合ってはしゃいでいる。ねえ、と言われても、『そうだ』とは言えず、アスランはなにか恥ずかしいものを見るような気分で眺めていた。
――――あ、あの人……東洋人かな。
その中に、黒髪の青年がいた。黒のタンクトップにボトムスは迷彩柄のパンツ。見るからに鍛えてますというがっしりとした体躯だ。
顔の感じからラメリア人ではなさそう。これはラメリア国軍と国家警察合同の訓練だから、白人以外は珍しい。
――――しかも、めっちゃカッコいい……。
「なにしてる。アスラン。下に降りるぞ」
「あ、はい。兄上」
海辺のレストランのテラスにいた国王御一行は、彼らを労うため、浜辺に降りた。てんでにいた訓練生たちも瞬時に隊列を組み、国王の前に並んだ。
「ランス国王陛下、ルイーゼ王妃、並びにご一家の皆様に敬礼!」
上官が叫ぶと、一糸乱れぬ動きで敬礼をする。アスランも背筋をピンと伸ばして礼を返した。
――――あの人……あ、いた。
ランス王がなにか言葉を掛けている。でも、そんなことはアスランはお構いなし。兄の肩越しから意中の彼を見つけた。その瞬間。
――――目、目が合った!?
心臓がキュっと掴まれたような感覚。さっと目を逸らしたが、アスランはあの感覚を今でも忘れることが出来ない。
形の良い双眸の中で輝く、磨かれた黒曜石のような二つの瞳。
――――それが、トーゴーだった。
晴れ渡る地中海の真っ青な空、雲のように白い、海鳥が舞っていた。
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