王子様と一緒。

紫紺

文字の大きさ
77 / 151

第75話 沙知子の野望(沙知子視点)

しおりを挟む


 階段の下に田中が消えていく。大好きな男の後姿を見送ると、沙知子は一つほおっと息を吐いた。

 ――――思い切って言っちゃった。でも、夏祭り、一緒に過ごせるかも! 

 沙知子はまだ春のうちから浴衣を探し、生地からあつらえていた。紺地にダリアの花柄、少し大人っぽいかと思ったが、少しでも背伸びしたいお年頃だ。田中が自分より8歳も年上であることも大きい。
 毎年、田中がコンビニ前の駐車場でドリンクを売っているのは当然知っている。そのわずかな瞬間のために、沙知子は毎年浴衣を新調していたのだが、今回はもう少し長く見てもらえるかもしれない。

 ――――けど……困ったな。中垣内さん。

 中垣内と沙知子は大学は別だが同じ大学3年生。入居時期もほぼ同じだ。

『沙知子さん、僕とタメなんですね。こんなに可愛い大家さんがいるところに住めるなんて、僕はラッキーだなっ』

 などと、会うと必ず『同学年アピール』をしてきた。それが純粋に、沙知子のことが気になっていて、自分を見て欲しいというのならまだいいのだが。
 彼は自分に自信があるのだろう、付き合ってやってもいいんだぞ、みたいな上から目線態度がアリアリだった。

 ――――すっごく感じ悪いんだよね。田中さんとは真逆。

 さっきも水道の出が悪いとかいいながら、夏休みにプールに行こうとか、夏祭りを一緒に過ごそうとか言ってくる。
 しかも、断るはずはないみたいな言い方で、勝手に待ち合わせ時間や場所を決めてくるのだ。

 ――――なんでそうなるのよ。いっつも断ってるのに!

 中垣内は最近、彼女と別れたばかりだ。だれかと付き合っている時は、さすがに言い寄ってこなくてホッとしてたのに。居なくなるとすぐ沙知子に来る。

 ――――私は控えかよっ! 冗談じゃないわ。

 高校生の時から沙知子の想いは田中一筋。その田中のことを、遠回しに馬鹿にしていることも、沙知子は知っていた。

『僕の大学は優秀ですから。そりゃ、一部例外もいますけど、それはレアケースなんで誤解しないで下さいね』

 なんて、沙知子の前で言った時には、思わず殴ったろうかと思ったほどだ。中垣内は全くわかっていなかった。彼女に嫌われることをイチから百までやってたことを。

 ――――夏祭りは、田中さんやアスランさん、トーゴーさんと過ごすんだから。大貫さんの縁台将棋に行って。

 偶然、廊下に出てきた田中。体よく中垣内を追っ払ってくれたことには大感謝だ。そのうえ、ずっと沙知子が言いたかったことが言えた。
 夏祭りに向け、アスランが浴衣を欲しがったこともあり、誘うきっかけを待っていたのだ。

 ――――今年もコンビニバイトするんだろうか。けど、アスランさんが行くなら、きっと田中さんも行くはず。

 当日は浴衣を着て、髪も結って、可愛くして祭りにでかけるつもりだ。

 ――――田中さん、なにか言ってくれるかな。夏祭りを一緒に過ごすのは、初めてだ。

 その時のことを想像すると胸が熱く満ちてくる。早く夏祭りが来ないかと指折り数える沙知子だった。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...