王子様と一緒。

紫紺

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第77話 会社説明会(中垣内視点)

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 盆を過ぎたと言え、まだ暑い日が続く。夏物のスーツも暑さからは免れず、肌とシャツが汗でくっついて気持ち悪い。地下鉄の駅を降りてから数分、目的の場所にたどり着くまでにうんざりしてしまう。

 ――――ああ、やっと涼しいところに入れた。

 中垣内は本日、初めての会社説明会に参加する。中小の企業が十数社集まる本格的なものだ。
 大きな体育館にいくつもの会社がブースを設けている。そこに自分の興味ある会社があれば、話を聞きに行くスタイルだ。中には製品のプレゼンや映像を見せているところもあり、ちょっとしたお祭り気分になっていた。

 ――――お、あった。〇×商社。

 受付で自分の略歴や希望業種を記入した中垣内は、ブースの配置図と体育館をきょろきょろと見比べる。
 そこに、よく知る会社名の看板を見つけた。既に目をつけていたところだ。中垣内は早速そのブースへと進んだ。

 中垣内は彼が言う通り、有名大学の3年生だ。卒業生の就職先も有望企業が多い。だが、それは田中が以前言ったとおり、学部に寄る(もちろん学生の成績、素養にもよる)。
 田中は政経学部だったので、割といい部類に入る。だが、中垣内は社会学部。実のところ成績も芳しくない彼は、本人が言うほど優良物件ではなかった。



「まあ、そういうことだから。中垣内君の希望に沿えるかどうかは……でも、是非エントリーしてくださいね」
「はあ……」

 自分が希望していた数社に回ってみたが、世に言う『売り手市場』みたいな感触は得られずじまいだった。
 その前の理系の学生には、すぐにも内定出すみたいな言い方してたのに、中垣内のシートをさっと眺めると、途端に塩対応になる。最後はおざなりの常套句でていよく追い払われてしまっていた。

 それもそのはず、彼はただ、CMなどで名の知れた企業ばかりに目が行き、彼が学んできたものに沿うような業種を選んでいなかった。
 就活の最初はそれも良くあること。徐々に身の程を知り、本来の就活の意義がわかってくるのだけれど……。

「そこの君、うちのブースにも寄っていかない? 今なら待ち時間が少ないよっ」

 バリっとしたスーツを着こなした若い社員が声をかけてきた。そういえば、さっきまでこのブースの前は椅子が満席だったなと中垣内は思う。

「あ、ここ、なかなかいいですよ。私はさっき行ったんですけど。アイスコーヒーもらえますし」

 と、たまたま隣にいた就活生らしき男性が囁いた。

 ――――田辺グローバル総合商社。へえ、なんか景気良さそうな会社だな。

 ま、珈琲頂けるならラッキーだ。と、喉が渇いていた中垣内は誘われるままそのブースに向かった。
 体育館の端っこのちょっと見えづらい位置にあったブース。彼が座ると、秒で珈琲が目の前に置かれた。

「やあ、中垣内君だね、よろしく。おっ、君、あの大学なんだ! いやあ、あそこの学生は優秀だよね。うちの会社にも何人かいるんだよ」

 渡したシートを見るなり、リクルート担当者は破願して言った。快活で見栄えのする30代ぐらいの男性、満足そうに中垣内のシートを眺め、うんうんと頷いている。

 ――――あれ。こんな笑顔で僕の経歴見てくれたの、今日初めてだぞ。

 さっきまで不満タラタラだったのが、報われた気分になる。出されたアイスコーヒーも殊の外美味しく感じる中垣内だった。



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