王子様と一緒。

紫紺

文字の大きさ
80 / 151

第78話 夏祭りの朝(多視点)

しおりを挟む


 区民の憩いの場『鯉の池公園』は、鯉たちが泳ぐ池を中心に、誰でも自由に遊べる芝生広場、子供用の屋内施設であるプレイハウス、小動物がいるふれあい広場など様々な施設がある。
 池では当然、ボートにも乗ることができ、休日には数隻の白鳥ボートが池に浮いていた。

 本日、この鯉の池公園で、夏祭りが開催される。芝生広場には屋根のある部分があり、そこには朝早くから、縁台将棋の準備が進められていた。
 その周りには、既にスタンバイをしているキッチンカーも数台あり、いい匂いが立ち込めている。

「おはようございます。大貫さん」
「おはようございます。本日はよろしくお願いします」

 大貫は、他の奨励会員と共に、午前中から準備に出かけていた。縁台将棋は午後から開始なので、実は祭りのトップバッターなのだ。

「斎藤先生はいつ頃入るかなあ」
「ああ、斎藤先生ならもう来られると思いますよ。こういうの大好きな方なので」

 本日は若手の棋士たちも数名参加する。祭りの実行委員たちは人気棋士が来るということでワクワクだ。ちなみに女流棋士も何人か来る。彼女たちの艶やかな浴衣姿も、毎年注目の的だった。



「成田さん、荷物はこれでおしまいですかね」

 区役所前に停めたバン。出会い・結婚支援室の面々が、段ボール箱や折り畳みの机、いす等などを積み込んでいた。

「そうね。これで終わりだわ」
「了解です。じゃあ、行きますか」

 男性室員が声をかけると、成田は頷き、助手席に乗り込んだ。

「行ってらっしゃーい。私は後から追いかけますねー」
「よろしく」

 本日は室長以外の10名が全員参戦。室長は一応、不測の事態に対応すると言う理由で区役所に待機となっている。

『とはいえ、僕も祭りが始まったらそっち行くから』

 などと言っていた。後輩女性が言うには、どうせ家族と散策するつもりですよ。ということだった。


 鯉の池公園の芝生広場には、地区の役員たちがやぐらを立てている。ここで盆踊りが繰り広げられるのだ。加えて、周りには夜店が並ぶ。
 キッチンカーとは違い、こちらは昔ながらの夜店。焼きそばやフランクフルト、金魚すくいに水風船などなど。現在は下準備中と言ったところだ。

「ねえ、ショウ。ショウは浴衣着ないの?」

 バイトに行く前、どうしても公園の様子を見に行くと言ってきかないアスランと、仕方なく付いてきた田中だ。作り上げられていくやぐらを珍しそうに眺めている。

「着ないよ。持ってないし」
「なんだー。つまんない」
「つまんなくないよ。アスランは着方知ってるのか? 誰かに着せてもらう?」

 バイトから直に祭りに行くつもりのアスランは、浴衣一式を大きなカバンに詰めて肩に担いでいる。

「うん、大丈夫。野々宮さんが着せてくれるって」
「ま、マジか」

 野々宮というのは、パートの古参だ。彼女なら着付けが出来ても不思議ではない。

 ――――そういうの、あっさり頼めるのもアスランの強さだよなあ。

 昨夜、アスランがなかなか眠れなかったのを田中は知っている。まるで遠足前の小学生のように。
 それでも今現在、目が爛々としている彼の素直な姿を見るにつけ、羨ましくもあり、ほっこりする田中だった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...