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第80話 祭りの音(トーゴー視点)
しおりを挟むトーゴーはバックヤードでアスランの着替えが済むのを待っていた。裏口のドアに凭れ、パーテーションの向こうを眺めている。
「ほら、ちゃんと背筋伸ばして」
「は、はい」
「きつくない?」
「だ、大丈夫です」
野々宮とかいう、既に還暦は過ぎているだろうパート女性に浴衣を着せてもらっている。トーゴーは今の今でも、アスランの浴衣の柄を知らなかった。
――――そこまで隠す意味あんのか。
でも、もの凄く気になっていた。
「お待たせ」
ようやく着付けが終ったアスランが、パーテーションをずらす。すごすごとその姿を現した。
「やっとおわ……」
と、言いかけたまま、トーゴーは固まってしまった。
――――あの日の……空と海……。
目の前に立つアスランの姿に、トーゴーは忘れられない瞬間を思い出した。青い海、青い空、縦横無尽に空を舞う白い鳥。
「アスラン君は肌も白いし、この浴衣、似合うよねえ。いいチョイスだわ」
野々宮が言う。アスランがなにやらお礼を言っているが、それも耳に入らなかった。
「ど、どうかな? トーゴー」
アスランに問われ、ようやく気が付く。
「あ、ああ。いいんじゃないか」
「そう?」
それだけ? 内心、アスランは素っ気ない返事にがっかりした。何を期待していたのか、自分でもわからない。
「おやおや。トーゴーさんだっけ? あんまり可愛すぎて絶句してるじゃないの。良かったねえ。アスラン君。アハハッ」
野々宮が豪快に笑った。それにはアスランだけでなく、トーゴーが面食らった様子で慌ててしまう。
「な、なにを言ってんだ。あんたはっ」
「図星ね。ま、お祭りを楽しんでおいで」
トーゴーの肩をバチンと叩き、野々宮は去っていく。もう呆気にとられるしかないトーゴー。はたかれた肩を撫でた。
「な、なんだあれは。全く……」
「トーゴー、あの……」
今のトーゴーの様子を、どう思えばいいのか、決めかねているアスランは上目遣いで彼を見た。
「い、行くぞ。さあ」
トーゴーはさっと手を出すと、アスランの手首を引っ張るように取った。勢いで2、3歩前に出るアスラン。瞬間手を繋ぐ感じになった。
「あ、うん!」
トーゴーがドアを開ける。はるか遠くから、太鼓の音が聞こえてきた。
――――祭りの音だ……。
裏口を抜けて駐車場に出ると、その手は離されてしまった。ほんの一瞬の出来事。けれど、繋がれていた右手がほんわかと熱いのがわかる。
「ショウ、行ってくるね!」
「アスラン、行ってらっしゃい」
店の前でドリンクを売るバイト学生と田中が手を振ってくれた。胸躍る時間が始まった。アスランも思い切り振り返した。
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