王子様と一緒。

紫紺

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第82話 不透明な予感(トーゴー視点)

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 トーゴーがらしくなく狼狽えたのは、質問の内容だけが理由じゃない。思いの外、ミレンがコミュニティに溶け込んでいるのに驚いた。
 大貫が指す将棋盤の周りにいたのは、ミレンだけでなく、1階の女性、成田もだ。

「ミレンさんもアスランさんも、浴衣が日本人より似合うって反則ですよね」
「あれ、誰かと思ったら、成田さんじゃないですか。浴衣じゃないんだ」

 アスランは素で驚いて声を上げる。大貫と将棋を指していたのは成田だった。しかも浴衣でなくワンピース。

「これでも仕事中なんですよ。とはいえ、今はまだ待機中。なので、大貫さんに教えていただいていたんです」

 もう少ししたら、婚活イベントに参加している人たちがここに来るのだという。

「ねえ。仕事でもお祭りなんだから、浴衣で良いのにね」

 などと、ミレンがアスランに小声で訴えている。

「もうイベントは終わってるんですが、ここは指したい人には誰でも使っていいので、どうですか? トーゴーさんも」
「え? お、俺? いや、それは駄目だ。集中しちゃうからな。まあ、また次の機会でも」

 真面目に答えてしまうトーゴーにアスランがプッと噴き出す。このメンツの中で、彼がアスランの護衛と知るのはミレンだけだ。

「将棋に集中しないで、なにに集中するんですか、トーゴーは。浴衣美女ですか?」

 などとミレンに揶揄われる始末だ。

「な、なわけあるかっ」

 わあっと笑い声が弾ける。自分が笑いの種になるなどあり得ないトーゴーだったが、迂闊な発言をなんとかカバーできたことに安堵する。不本意だがミレンに感謝した。

「大貫さん、沙知子さんは? ここに居ると思ってたんだけど」

 アスランが周りを見渡して尋ねた。沙知子とは、ここで待ち合わせるつもりでいたのに当の本人の姿が見えない。

「沙知子さんなら、さっきまで居たんですけど……あれ、どこ行ったんだろう」

 大貫もアスランと同じように首を振る。

「ああ、それなら……誰かが呼びに来てましたよ。浴衣着た……若い男性?」
「え? そうなんだ……」

 ミレンの返答にアスランは首を傾げる。沙知子さんが自分たちを待たずにどこかに行くのはちょっと解せない。

 ――――沙知子さんはショウのこと、気になってると思ってたんだけどな。

 今回、ここで待ち合わせをすることも、田中とはぐれたくないからだと思っていた。田中は否定するけれど、何度なくそんな雰囲気を感じてきたアスランだ。

「それって……中垣内さんよね。なんだか心配」
「え? 中垣内さん? あの、私達の下の階の?」
「そう。多分」

 成田さんも沙知子さんが彼に呼ばれたのを気付いていたよう。アスランは一挙に心配になった。

「なんだよ。その、中垣内とかいうの」

 トーゴーが小声でアスランに尋ねる。トーゴーは中垣内とは面識が薄かった。夏休みで実家に帰省していたのがその理由ではあるが。
 一応昭和荘の住人については氏素性を調査済み、特に問題はないように記憶していた。

「ああ、なんかね。嫌な感じの人なんだよ。ショウのこと馬鹿にしてさ……」

 アスランは彼と一度だけ遭遇した日のことをトーゴーに話した。

「ふうん……。まあ、自分で付いて行ったのなら、大丈夫じゃないかな」

 と言いながらも、なにか不透明な予感が過る。それは盤を囲む面々、共通の意識だった。



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