王子様と一緒。

紫紺

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第83話 縁台将棋(トーゴー視点)

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 成田が本来の職務に就くため、大貫の将棋盤から抜けた。婚活イベントのグループが最終地点である芝生広場に到着したのだ。

「大変ですね。お祭りにお仕事なんて」

 成田が去った後を目で追いながら、ミレンがぽつりと零した。

「おい、ミレン」

 その切なそうな表情に、トーゴーがここぞとばかりに絡んだ。アスランは大貫に将棋をルールから教えてもらって真剣だ。

「おまえ、まさかと思うが……成田さんに?」

 え? と、少々の間。ミレンは大きく息を吐いた。

「はあ。なに言ってんですか。全く……」
「なんだよ。別に任務地で恋愛したって規則違反じゃないだろう。任務遂行に間違いがなければの話だが」
「違いますよ。任務中に恋愛なんてしません。誰かじゃあるまいし」
「あ? 誰かって?」

 ――――なんだよ。全然自覚ないんだから。まあ、僕も言えた義理じゃないか……。

「なんでもないです。でも、成田さんの前で、そんなこと絶対言わないで下さいよ。本当にそういうんじゃない。ただの……友人です」

 友人。そう言いながらも、友人と言っていいのかとミレンは思う。ただ、お互いが気を使わなくていいのが心地よい。それだけの間柄だ。

「それより……ちょっと沙知子さん、探してきますよ。なんだか気になる」
「ええっ? あ、いや。そうか。俺も気になってたから助かるよ。頼む」

 ミレンの言動に、トーゴーはまたまた驚かされた。

 ――――あいつの口から『友人』なんて言葉が出てきただけでも驚くのに、沙知子さんを心配して探しに行くとか。一体、あいつになにが起きているんだ。

 トーゴーはアスランがここに居る限り、持ち場を離れるわけにはいかない。だが、言ったとおり、沙知子のことは気になっていた。

 ――――ここがラメリアから遠く離れた日本だからこそ。ミレンにもそういう感情が芽生えるのかもしれんな。諜報活動ならざる自然の感情。

 何を企み、何を狙っているのかわからない、ラメリアの宮廷。レアアースが発掘されたころから、宮廷内は濁った空気が漂い始めた。王位継承という名の利権をめぐる冷たい戦争。

 ――――国が富む良い兆しだと、国王陛下は喜んでおられたのにな……。

「わあ、あんた、そりゃ二歩だよっ」

 すぐ横で、わあっと歓声が上がった。外人の将棋指しは珍しかったのだろう。アスランと大貫が挟む盤は、あっという間に人だかりが出来ていた。

「ホントだ。おまえ、マジでひでえな」
「だって……トーゴー、一緒にやってよ」

 自分の大ポカに気付いて真っ赤になっているアスラン。大貫は余裕の笑みで、「どうぞ」っと手のひらを見せる。

「しょうがねえな」

 隣りに用意された椅子に、トーゴーは腕まくりをしながらどしんと腰を下ろした。久しぶりの将棋だ。

 ――――なんだかワクワクする。俺もミレンの自然の振舞いに感化されたか。

 この日ばかりは何事も起きないで欲しい。この祭りに集まった人々全員が、楽しい思い出を作り、胸いっぱいになって家路について欲しい。
 そんな願いがトーゴーの脳裏を駆け抜ける。二歩の歩を駒台に戻し、迫られた桂馬を銀で取った。



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