王子様と一緒。

紫紺

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第87話 中垣内の罠(沙知子視点)

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 まだアスランたちが縁台将棋にたどり着いていない頃。ウキウキ気分で大貫たちと一緒にいた沙知子に、中垣内が声をかけてきた。
 とっても嫌だったが、無視するわけにもいかない。そんな沙知子の根の優しさに中垣内は付け込んだ。

「先日は失礼しました。僕、色々反省しましたよ」

 などとしおらしい表情を見せた。

「ああ、いえ。私もなんか、すみません」

 別に謝る必要はないのに、沙知子はぺこりと頭を下げる。

 ――――やっぱりはっきり言えば良かったんだ。中垣内さんからしたら、煮え切らない態度と思っていたのかも。良かった。

「実はこの間、先輩と話をする機会がありまして」
「そうだったんですか」

 同じアパートに住んでいるんだ。そういうこともあるだろう。沙知子は田中の話ならどんなことでも聞いておきたい。相手が中垣内であっても食いついてしまった。

「先輩が就活しなかったのも、やりたいことがあるからで。その夢に向かって邁進してると言われました。
 僕は思いも寄らなかった。そんな凄い方だったなんて、改めて尊敬しました。あ、残念ながら、夢の内容は教えてもらえなかったですが」
「ああ、いえ、私も知らないですよ」

 ここはバックレておこう。アスランに会った時、つい話してしまったことを、沙知子は後悔していた。大っぴらにしたい話ではないだろう。まだ、夢には全然到達していないのだから。

「ああ、はい」

 ちょっと中垣内は鼻で笑った。

「先輩、祭りに行きたいみたいでしたが、仕事で遅くなるそうです」

 それは私も知ってるよ。沙知子はそう思ったが、敢えて口にしなかった。あの中垣内が田中のことを尊敬するとは。そのことが自分のことのように誇らしかった。

「実は、先輩から伝言があるんです」
「え? 伝言?」

 中垣内さんから? そんなの、アスランに言えばいいのに。どういうこと?

「先輩、沙知子さんに気があるんですよ。気が付きませんでした?」
「そ、そんなっ……そんなこと」

 湧いた疑問が一変に吹き飛んでしまった。『沙知子さんに気がある』なんというパワーワードか。

「一緒について来てくれませんか。どうやら告白したいみたいです。ここでは、昭和荘の面々がいて具合が悪い。だから……」
「だから、中垣内さんに伝言を?」

 中垣内は精いっぱいの笑みを作る。

「そうです。もうバイトも終わったと連絡がありました。お待ちですので、急いでいきましょう」

 さっと手を翳す。どうやら鯉の池の方に田中がいるらしい。と、沙知子は思った。
 田中が自分に告白してくれる。出来過ぎた話なのに、疑うことはなかった。沙知子は完全に舞い上がっていた。



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