王子様と一緒。

紫紺

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第89話 ダリアの浴衣

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「真柴さん!」

 お祭りの夜は佳境を迎えている。盆踊りはラストの曲突入だ。そんな楽しい夜なのに、僕はデカい男に殴り飛ばされた。
 ようやく腰にしがみついたが、今やそれも風前の灯、そいつの両手ハンマーが背中に振り落とされ、腕がもう限界だ。

「え?」

 だが……どういうわけか、ヤツの二の矢は振り落とされなかった。そればかりか、僕の腕から巨体が抜け落ち、そのまま地面に仰向けに倒れていった。

「どういうこと?」

 おでこから血を流した真柴が、気絶している。そのすぐ横に、ゴルフボールくらいの石が転がっていた。驚いた中垣内が真柴のそばに駆け寄り、石を拾う。

「誰だ! 石なんか投げやがって! 真柴さん! しっかりしてください」

 中垣内が慌てている。トラの威を借っていた狐が、寄生主を失って青くなっているのだ。

「あ、そうだ、沙知子さんっ」

 僕は茫然としている沙知子さんの腕を取った。我に返ったのか、彼女は僕の背中に隠れる。

「中垣内、おまえどうするつもりだ? 僕はおまえを許す気はない。続けるなら受けて立つ」
「そ……それは……」

 中垣内の顔がなんとも情けなく歪んでいく。ボコられた僕が偉そうにするのは気が引けるが、こいつにだけは負けたくない。やる気ならとことんやってやる。その前に、沙知子さんにはみんなの所に逃げてもらうけど。

 その沙知子さんはようやく落ち着いたのか、握っていた僕のシャツから手を離した。

「中垣内さん、ウチのアパートから出て行ってください。両親に今日のことは話します」
「け、警察沙汰にはしないでくれ……あの、就活中で」

 無様に膝を付き、中垣内は懇願する。沙知子さんは僕を見上げて一つ頷いた。

「都合のいいときだけ就活言わないで下さい。どうするかは、またお知らせします」

 目を回している真柴はピクリとも動かない。だが、もちろん死んでるわけじゃない。
 あの瞬間に、気絶させるべく石を投げる力量。計算尽くされた攻撃が出来る男は、僕が知る限り一人しかいない。

 ――――トーゴー。いつの間に、僕の後ろにいたんだか……。

「とにかく、両親と相談しますので。田中さん、もう行きましょう」

 自然と沙知子さんは僕の腕に自分の腕を絡めてきた。がっくりと肩を落とす中垣内は、恨めしそうに目を回している真柴を見下ろした。
 それを背中に感じながら、まだ盆踊りの音が響く芝生広場を目指す。

「ありがとうございました。田中さん……私ったら、本当に馬鹿で……」
「いえ、僕はなにも役に立てなかったですし……」
「そんなことないです! あんな大きな人に向かっていって……怪我、大丈夫ですか?」

 心配そうに僕の顔を見上げながら、ぎゅっと体を寄せてくる。心臓が体中にあるくらい鼓動が走り回って息ができない!

「に……似合ってますよ。ダリアの浴衣」

 なのに、なんでこんなことを言ったのか。多分、彼女の後ろを歩きながら、ずっと思っていたからだろう。ようやく口に出来た。

「え? あ、ありがとうございます」

 沙知子さんの指にキュっと力が入る。僕は今にも昇天しそうなくらい感動した。

 ――――ありがとう。トーゴー。一生、恩に着るよ。

 だが、実は僕たちを助けてくれたのが、トーゴーでなかったことを。僕は後ほど知ることになった。



 その頃のトーゴーとアスラン。

「参りました」
「勝った! 大貫さんに勝つなんて凄いよ、トーゴー!」「強いなあ、あんちゃん!」「すげえ、奨励会の人に勝つなんて尋常じゃねえ!」
「まあ、飛車角落ちですから」

 アスランから引き継いだ盤で、大貫に勝ってしまった(勝たせてもらったともいう)。大騒ぎの縁台将棋で、満更でもない表情のトーゴーだった。



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