王子様と一緒。

紫紺

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第90話 ミレン大活躍(ミレン視点)

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 仲睦まじく芝生広場に向かう二人を眺めている影が一つ。鯉の池を周回する遊歩道に、銀髪の男がいた。白地の浴衣に深緑の帯をお洒落に着こなすミレンだ。

 ――――なんかまあ、うまくいったみたいですね。一つぐらい殴られてもお釣りがくるでしょう。

 などと笑みをこぼした。石を投げて田中と沙知子の窮地を救ったのは、ミレンだった。
 命は奪わない。だが気絶をさせるため、石の大きさと速度、狙う場所を瞬時に計算し、正確なピッチングで真柴の額を打ち抜いた。まあ、銃なら即死だが。

 ――――ん? あれは……?

 祭りばやしが花火に取って代わろうとしている。盆踊りは踊り締めをし、皆が花火に注目する時間だ。
 それなのに、この遊歩道を歩く男女がいた。人目を避けていちゃつくのならアリだろうが、一人はその可能性が限りなくゼロに近い人物だ。

 ――――変だ。どこに行くんだ。成田さん。

 なかなか祭りを愉しめないな。ミレンは遊歩道の林の中へと進む成田と下川の後をつけた。

「この辺ですか? 下川さん」

 懐中電灯で下道を照らし、成田は目を凝らして落とし物を探している。

「ええ。そのはずです。あっ、成田さん、ありました!」

 すぐ後ろで下川が叫んだ。どうやら目当てのスマホがあったようだ。

「本当ですか!? 良かったぁ……」

 さっと振り返った成田は呼吸を止めた。彼女のすぐ前、もう息がかかるほどの位置に下川がいた。

「ええ。ありました。なのでもう……いいでしょう?」
「いいって……な、なにがですか」

 後ろに下がるが、大きな木にすぐ背中が当たり、それ以上下がれない。

「スマホなんて落としてないですよ。ご存じだったでしょうに。そんな真面目な公務員のフリはしなくていいんですよ?」

 少しの間。成田は下川が何を言っているのか本当にわからなかった。

「そ、それは……どういうことでしょうか。私は本当にスマホを探しに……」
「私はあなたと二人きりになりたかった。盆踊りも花火もどうでもいいじゃないですか」

 成田も同じ気持ちだと、下川は信じて疑わない。ここがチャンスと成田の腕を取った。

「やめてください。人を呼びますよ」
「人って? こんなところに誰がいるんですか。今はみなさん、花火に夢中ですよ。嫌だなあ。そこまで真剣にお芝居しなくても」
「し、芝居って! やめてって言ってるじゃないですか!」

 成田はようやく事態が飲み込めた。下川は自分を騙してこんな場所に連れてきた。そうとも知らず、のこのこ付いてくるなんて。

「私はあなたと二人きりになりたいなんて、ぜっんぜん思ってません! 仕事の一環としてきたんです! 誤解しないでください!」

 掴んだ手を思い切り振り切られた下川は憮然とする。

「なんだよ。あんなに思わせぶりなことして、この期に及んで仕事だと?」
「思わせぶりなんてしてません。仕事以外のなにものでもないです」

 今までにやけていた顔が、急に険しい表情になった。成田は背中の木からずれて、後ずさる。

「ふざけるなよっ! 行き遅れのくせ……」
「そのくらいにしてもらえませんか。参加者の方」

 成田に迫ろうといからした肩を、強い力で掴まれた。思わず下川は後ろを振り返る。

「ミレンさん……」

 そこにはアイドル風の可愛い顔を、獲物を狙う猛禽類に変えた、ミレンがいた。



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