94 / 151
第91話 夜空に咲く花(ミレン視点)
しおりを挟む鯉の池周辺の遊歩道。林の中で、二人の男が睨みあっている。その後ろには、ワンピース姿の成田がオロオロしていた。
「誰だ、あんた。外人さんか」
「ええ。そうです。お相手は参加者の方から選んでもらわないと困りますね。彼女は担当者であって参加者ではない」
「ふうん、なんか物知り顔だな。手を放せよ」
「放せませんね。成田さんに謝ってもらうまで」
グッとここで力を入れる。下川から余裕の表情が消えていく。
「や、やめろ。おまえ、この女のなんだよ」
「ミレンさん、もう、もう、いいですから」
下川がどうなろうと構わなかったが、ミレンが彼に怪我をさせては大変なことになる。成田はそれが心配になった。
「そうですか? じゃあ、まあ放しましょうか」
トンっと突き飛ばすようにして肩から手を離すと、下川は掴まれた肩をさすって息を吐く。その隙にミレンは成田の横に身を翻した。
「下川さん、もし私の態度に誤解されたのなら謝ります。ですが、本当にそのような気持ちではないのです。参加者の方からお相手が見つからないのでしたら仕方ありませんが、このようなことは会員規則にも反します」
「会員規則ねえ。まあ、わかったよ。でも、私は酷く傷ついた。このことは、きっちりクレーム付けるからなっ」
などと下川は捨て台詞を吐き、遊歩道を足早に去っていった。
だが実際は、ミレンの醸し出す危険な匂いに気圧され、逃げ帰ったのが本音だ。肩に食い込むほどの握力に、下川は心胆寒からしめていた。
「ありがとうございました。ミレンさん」
張っていた気が一挙に抜けた。成田はミレンに縋るようにして息を吐く。今頃震えが来た。
成田は下川が何をしようとしたのか想像はできていた。それを考えると震えるほど怖くて吐き気がするほど気持ちが悪い。
「大丈夫ですよ。たまたまこちらを歩いていて良かったです」
本当にたまたまだったが、成田を救えたのは幸運だったなとミレンは思う。
「ああ、本当に。こちらにはどうして?」
「沙知子さんを探してたんです。あ、そっちも解決してますからご心配なく」
成田は沙知子が中垣内とどこかに行ってしまったのを思い出した。
「そっちもミレンさんが解決したんですか? 大活躍じゃないですか」
「え? いえいえ、それは、田中さんが」
まあ、本当は自分もだけど、そこは花を持たせてやるか。
「さあ、成田さん。花火が上がってます。池まで出て、観ませんか? 僕とじゃ物足りないかもですが」
「まさか! ええ。行きましょう。私こそ、お相手には不足でしょうけれど……」
申し訳なさそうに、成田は上目遣いでミレンを見る。さっきまでアサシンのような鋭い目つきだったミレン。今はもう、まつ毛クルンにぱっちりおメメの童顔ミレンに戻っている。
「ちょうどいいですよ。我々は」
「え? ああ、はい。そうですね」
成田はミレンの言い様に、妙に納得した。そこに大きな音とともに見事な大花火が夜空に広がり、鮮やかに散っていく。
「わあ、綺麗!」
「本当だ。やはり日本の花火は素晴らしい。あなたの好きな花が、夜空に咲かせているようじゃないですか」
「ええ、本当に。こんなに花火を綺麗と思ったの、久々です」
鯉の池のほとりまで行くと、祭り客たちが立ったまま、上を見上げ花火見物に興じている。
成田とミレンもその集団に混ざり、夜空を彩る花々の輝きに歓声を上げた。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~
天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。
「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」
「おっさんにミューズはないだろ……っ!」
愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。
第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる