王子様と一緒。

紫紺

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第92話 あの日の空と海(アスラン視点)

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 芝生広場では、華やかに始まった花火に見入る人達でごった返している。さっきまでやぐらの周りで踊っていた連中も、思い思いの場所に腰を下ろし、夜空を彩る花火を見上げていた。

 この祭りでの花火は、公園に隣接しているグラウンドで挙げられている。そこは立ち入り禁止なので、鯉の池公園から観るのが一番良く見えるのだ。

「たまやー!」
「お、おい、今時そんな掛け声かける奴いないぞ」

 いきなり大声を出すアスランに驚いたトーゴーは、慌てて止める。二人は花火が始まってから、見やすい場所を探して移動していた。周りには同じ目的の人々が同じ方向を見上げている。

「ええ? だって、楽しんだもん。あっ! また上がった! うわああ」

 と、歓声ともため息ともつかない声を上げている。

 ――――まあ、いいか。こんなに喜んでるんだものな。

 思えば帰国が危険と考え来日してから、早くもひと月半が経っている。危ないことはあったけれど、アスランにとっては毎日が刺激的で冒険の日々だったろう。

 ――――少しは成長したかな。甘々の王子様。

「でも良かった。沙知子さんが無事で。ショウともちゃんと会えていたんだ」

 この場所に移動する時、沙知子と田中が一緒に歩いているのを見かけた。なかなかハードな場面があったことなど、アスランは知る由もない。ただ、トーゴーは。

 ――――ショウ、顔に怪我してるように見えたが。まあいいか。あんなにニヤケタ顔してんだ。結果良ければ、だろう。

 なんて自己解決していた。今回は、どの騒動にも役立たずのトーゴーだった。

「そうだな。お、また上がった。大きいなあ」

 トーゴーにとっても久しぶりの日本の花火だ。なにか甘い思い出と苦い過去が入り混じった不思議な感情が湧いてくるが、花火そのものは美しい。

「ねえ、トーゴー。この浴衣、どう思った? なにか、その」

 柵に腰を掛け、中腰のアスランが上を見たまま問いかける。その横で立っているトーゴーはピクリとしてアスランを見下ろした。その視線が、いつしか交わる。

「綺麗な……柄だと思ったけど?」
「それだけ? トーゴー」

 豪快な音がして、また青や赤の花びらが夜空を彩っていく。アスランは視線を外して上を見上げた。トーゴーも同じように顎を上げ、口を開く。

「ラメリアの、空と海、みたいだよな」

 チリチリと音を立てて花びらが散っていく。やがてすうっと溶けるように消えた。

「うん……私たちが初めて会った日の、空と海、それに海鳥たちの……」
「え?」

 再び二人の視線が交わる。トーゴーはアスランの真意を測りかねた。多分、これが日常の中で、例えば田中の部屋だったり、観光に向かう電車の中なら、深追いしなかっただろう。聞かなかったフリをしたかもしれない。
 けど、心臓に響く花火の音が、夜空に舞う美しい花びらが、祭りの高揚感がそうさせなかった。

「覚えていたのか? あの日のこと」

 トーゴーだって忘れもしない。美しい王子にあったあの瞬間。人生の全てを賭けても悔いはない。そう感じる人に出会ったあの時のこと。

「もちろん。私が初めて、貴方を見つけた日だもの。好きになった……日だもの」

 何連発という豪華な花火が打ちあがる。立て続けに鳴り響く音、光、熱。夜空は一瞬にして明るくなり、幾重にも花が咲き誇る。
 その下で、二人は黙ったまま見つめ合っていた。



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