95 / 151
第92話 あの日の空と海(アスラン視点)
しおりを挟む芝生広場では、華やかに始まった花火に見入る人達でごった返している。さっきまでやぐらの周りで踊っていた連中も、思い思いの場所に腰を下ろし、夜空を彩る花火を見上げていた。
この祭りでの花火は、公園に隣接しているグラウンドで挙げられている。そこは立ち入り禁止なので、鯉の池公園から観るのが一番良く見えるのだ。
「たまやー!」
「お、おい、今時そんな掛け声かける奴いないぞ」
いきなり大声を出すアスランに驚いたトーゴーは、慌てて止める。二人は花火が始まってから、見やすい場所を探して移動していた。周りには同じ目的の人々が同じ方向を見上げている。
「ええ? だって、楽しんだもん。あっ! また上がった! うわああ」
と、歓声ともため息ともつかない声を上げている。
――――まあ、いいか。こんなに喜んでるんだものな。
思えば帰国が危険と考え来日してから、早くもひと月半が経っている。危ないことはあったけれど、アスランにとっては毎日が刺激的で冒険の日々だったろう。
――――少しは成長したかな。甘々の王子様。
「でも良かった。沙知子さんが無事で。ショウともちゃんと会えていたんだ」
この場所に移動する時、沙知子と田中が一緒に歩いているのを見かけた。なかなかハードな場面があったことなど、アスランは知る由もない。ただ、トーゴーは。
――――ショウ、顔に怪我してるように見えたが。まあいいか。あんなにニヤケタ顔してんだ。結果良ければ、だろう。
なんて自己解決していた。今回は、どの騒動にも役立たずのトーゴーだった。
「そうだな。お、また上がった。大きいなあ」
トーゴーにとっても久しぶりの日本の花火だ。なにか甘い思い出と苦い過去が入り混じった不思議な感情が湧いてくるが、花火そのものは美しい。
「ねえ、トーゴー。この浴衣、どう思った? なにか、その」
柵に腰を掛け、中腰のアスランが上を見たまま問いかける。その横で立っているトーゴーはピクリとしてアスランを見下ろした。その視線が、いつしか交わる。
「綺麗な……柄だと思ったけど?」
「それだけ? トーゴー」
豪快な音がして、また青や赤の花びらが夜空を彩っていく。アスランは視線を外して上を見上げた。トーゴーも同じように顎を上げ、口を開く。
「ラメリアの、空と海、みたいだよな」
チリチリと音を立てて花びらが散っていく。やがてすうっと溶けるように消えた。
「うん……私たちが初めて会った日の、空と海、それに海鳥たちの……」
「え?」
再び二人の視線が交わる。トーゴーはアスランの真意を測りかねた。多分、これが日常の中で、例えば田中の部屋だったり、観光に向かう電車の中なら、深追いしなかっただろう。聞かなかったフリをしたかもしれない。
けど、心臓に響く花火の音が、夜空に舞う美しい花びらが、祭りの高揚感がそうさせなかった。
「覚えていたのか? あの日のこと」
トーゴーだって忘れもしない。美しい王子にあったあの瞬間。人生の全てを賭けても悔いはない。そう感じる人に出会ったあの時のこと。
「もちろん。私が初めて、貴方を見つけた日だもの。好きになった……日だもの」
何連発という豪華な花火が打ちあがる。立て続けに鳴り響く音、光、熱。夜空は一瞬にして明るくなり、幾重にも花が咲き誇る。
その下で、二人は黙ったまま見つめ合っていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~
天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。
「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」
「おっさんにミューズはないだろ……っ!」
愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。
第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる