王子様と一緒。

紫紺

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第93話 切なくも美しく

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 花火が終って大勢の祭り客が帰路に着く。僕も沙知子さんとその中に混ざるようにして昭和荘までの道を歩いた。

「傷の手当をしないと。私の部屋に寄って下さい」

 昭和荘の玄関が近づいたところで、沙知子さんが言う。

 ――――へ、部屋に? こんな時間に僕が彼女の部屋に行っていいんだろうか。

 どう答えていいのかわからないでいる僕に、ふいに大きな声が降ってきた。

「ショウ、その怪我どうしたの? どっかで転んだ?」

 さっと頭を上げると、なんと玄関口にアスランとトーゴーがいた。僕らが歩いてくるのに気付いて待っていたようだ。あれ……。

 ――――なんか今、二人は手を繋いでいなかったか? 咄嗟にトーゴーが離した気がする。

「ショウ?」

 一瞬黙ってしまった僕にアスランが再び問いかけた。

「あ、ああ。まあ、そんなところだよ。でも大したことない」
「そんなことないです。消毒しないと……」
「消毒液なら私、持ってますよ。旅行には必需品だし」

 それを助け船と呼ぶのか、余計なお世話というのか。その時の僕は、咄嗟に船に手をかけてしまった。まあ、経験値が少ないとこんなものだよ。

「そうか。それなら良かった。貸してくれ」

 ということで、僕らはいつも通りにいつもの場所に戻った。僕とアスランは203号室に。沙知子さんは202号室に。そしてトーゴーは屋上に。



「随分、器用なこけ方したんだね」

 アスランは僕が公園の駐車場で格闘(一方的に殴られたんだけど)したことを知らないようだった。トーゴーは何も言わなかったのかな。
 もしかすると、僕の無様な姿を黙っててくれるつもりなのかも。なら、このままにしておくか。
 明るいところで見ると、顔だけでなく、膝や肘も擦り傷だらけだった。

「なんかさ。トーゴーとなにかあった? めっちゃ機嫌良さそうだけど」

 消毒薬を塗ってくれるアスランに、僕は尋ねてみた。手を繋いでいたのは、多分錯覚じゃない。

「あ……えへへえ。わかる」

 と、上げた顔は物凄くわかりやすい。目じりが下がって、口角がふにゃふにゃしてる。

「おおっ! マジか!」
「うん……実は、トーゴーに告白したんだ。勇気を出して……というか、雰囲気にのまれちゃっただけなんだけどね」

 てへぺろよろしく、顔をクシャっとした。なんだよ、めっちゃ嬉しそうじゃないか。

「じゃあ、うまくいったんだよな? あいつも……」

 思っていた通りだ。やっぱりトーゴーもアスランが好きだったんだ!

「う……ん。多分……」
「多分?」

 アスランはふうっと大きく息を吐く。甘いため息だ。

「護衛としての任務を考えると、言えないんだよ。そんなことがもしもバレたら、トーゴーは任務を解かれてしまう……。でもね、帰り道、手を繋いでくれた。人ごみにはぐれないようにって……」

 アスランは視線を揺らめかす。その色っぽさが、今までになく切なくて美しかった。



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