王子様と一緒。

紫紺

文字の大きさ
98 / 151

第95話 ミレンの好きな人

しおりを挟む


 その日、バイトが終わった僕らは「松葉の湯」で汗を流しに行った。バイト終わりに銭湯に寄るのはルーティンの一つでもあるが、夕食後の時もあるのでマチマチだ。

「ふう、気持ちいい。労働の後の風呂は格別だね」

 などと、どっかのおっさんみたいなことをアスランが言う。ま、同感だけど。

「あ、ミレン!」

 シャワーを浴びたミレンが湯舟にやってきた。いつの間に来たんだろう。

「おや、お二人お揃いで」
「トーゴーもいるよ」

 アスランが顎をくいっとする先には、トーゴーが修行僧みたいな顔で水風呂に浸かっている。

「知ってる」

 水音をさせず、ミレンが僕の隣に入った。

「ねえ、ミレン。昨夜は危ないところを助けてくれてありがとう。君だろ? 石を投げたの」
「え?」

 まつ毛をクルンとさせたミレンは、大きな目をより一層広げる。

「誤魔化さなくていいよ。さすがにミレンしか考えられない」
「あー、まあ、たまたまなので、お気になさらず」

 口角をきゅっと上げてミレンはほほ笑む。

「やっぱり。助かったよ。もう少しで足腰立たなくなるとこだった」

 あの真柴という野郎がどこまで本気かはわからないが、僕が気絶するまでは力を緩める気はなかったんじゃないかな。

「でも、田中さんも勇敢でしたよ。沙知子さんも惚れ直したんじゃないですか?」
「ほ、惚れなおすとか」
「そうそう、それはあるよっ」

 アスランが話に乗ってくる。そんなに熱い湯じゃないのに、のぼせそうだよ。

「あ、トーゴー、待って」

 水風呂から上がったトーゴーを追って、アスランが慌てて出て行った。なにか話したいことでもあるのか。今日は一日中、わかりやすくはしゃいでいたけれど。

「ミレンはその後、どこにいたの? そのまま姿見えなかったけど」
「え? あ、ああ。それは。あの後、偶然成田さんと会ったので、一緒に花火を見てました」
「成田さんと? へえ、そうなんだ。なんだか随分親しいよね。気が合った?」

 これはもしやと、僕は思わなくもない。ただ、露骨になり過ぎないよう探りを入れた。

「田中さん」
「な、なに?」

 なのに、もの凄くマジな表情でミレンが僕を見た。なにか、まずいことを言ったか?

「誤解してるかもですが、そういうんじゃないです。僕には他に好きな人がいますしね。成田さんに迷惑がかかりますので、変な推測だけはしないで下さい」
「え? あ、ああ。ごめん。そうなんだ」

 ミレンに好きな人がいるというのも初耳だし、なんか凄く気まずいんだけど。

 ――――なにか事情があるんだろう。詮索しないほうがいいんだよ。きっと。

「ところで……アスランはどうしてあんなにご機嫌なんですか? いつも明るいけど、かなり違和感がある」
「ああっ。なんかねえ、祭りでトーゴーといい感じになったみたいだよ。あ、アスランの気持ちとか……」
「もちろん気付いてましたよ。トーゴーみたいに鈍くないんで。そうですか……それは、良かったですね」

 ミレンは視線を落として小さく息をついた。僕はその時、その小さな息が示すものがなにか、全く気付くことはなかったんだ。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...