王子様と一緒。

紫紺

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第96話 真夜中の訪問者(ミレン視点)

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 その夜。ミレンは遅くまでまんじりともしなかった。ベッドに横たわり天井を眺めるばかりだ。
 最近のミレンの任務は、大使館が設置した防犯カメラやセンサーの解析、アスランへの緩い警護(トーゴーがいるのでほぼ不要)。スパイ捜査中のザイカム中尉の手伝いとラメリア本国にいるジョルジュ王子への定期報告等など。
 要するに大してやることがなかった。

 ――――夜にしっかり睡眠が取れる日が来るとはね。そろそろラメリアに帰れと言われそうだ。

 むっくりと起き上がると、壁に貼ったポスター大の写真を眺める。小さい写真はアスランの連れ去り事件の時に剥がしたが、この訓練生の時のツーショットは剥がせずにいた。

 ――――アスラン、トーゴーに告白したんですね。あり得ないことじゃないのに、割とないと高を括ってましたよ。

 田中の話によると、トーゴーからの返事はなかったそうだ。言葉にすると警護の任を解かれる。その通りだ。
 だから、お互いがもし相思相愛でも、口にすることはないとミレンは思っていた。

 ――――祭りなんて、なんか高校生の文化祭みたいなもんですよね。あーあ。

 壁紙のような写真に手を伸ばす。辛いから、剥がしてしまおうかと指をかける。はらりと腰砕けのように真ん中で折れた。

『ミレンさん! ミレンさん! 起きてます?』

 その時だ。部屋の扉をどんどんと叩く音が。足音には気付いていたが、怪しいものではなかったので、田中の来客かと思っていた。自分を訪ねてくる人がいるとは想像もしていない。

「成田さん? 成田さんですか? どうしました」
『開けてくださーい。よろしくお願いしまーす』

 明らかに様子がおかしい。酔っぱらってるのか。ミレンは半折れになった写真をそのままにして、玄関に向かった。

「どうしたんですか。成田さっ」

 扉を開けると、そこに凭れていたのか、市場のマグロみたいに成田が玄関になだれ込んで来た。

「すみません……酔っ払っちゃって」

 玄関のたたきに座り込む。確かにかなり飲んだようで、酒臭い。

「どうしたんですか。らしくない」
「らしくない? ミレンさん、私のなにをご存じで? 私らしいってどういうんですか?」

 まるでらしくなく、成田は絡んで来た。驚いたミレンは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。

「とりあえず、一息ついてください」
「あ……ありがとございまーす」

 ペットボトルを受け取ると、思い切りよく喉に流す。ミレンはその様子を見下ろしながら、これに至る理由を考える。思い当たることがあった。

「もしかして……あの、下川って人、役所になにか言ってきたんですか?」

 つい今まで、幽霊のように体を揺らしていた成田の動きが止まった。ペットボトルを握りしめ、唇を噛んだ。

「そうなんですね……僕が出過ぎた真似をしましたか」
「いいえっ! それは違います。ミレンさんはなにも悪くない。ああ、安心してください。あなたのことは一言も職場に言っていないです。
 あの下川さんも自分がやり込められたのが悔しいのか、ミレンさんのことには触れてないので」

 訴えるようにミレンの顔を見る成田。その双眸からは、悔し涙が溢れて流れていた。


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