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第99話 事件勃発
しおりを挟む祭りから三日経った水曜日。いつも通りのシフトで、僕とアスランはコンビニでバイト中。今日はもう一人、ベテランパートの野々宮さんがいた。
「ねえ、田中君、お祭りどうだった? アスラン君は機嫌良さそうだけど」
ちょっと手がすくとすぐに話しかけてくるパートさんあるある。まあ、これも想定内。
「楽しかったみたいですよ。浴衣は着崩れることもなかったですし」
「そんなの当り前よ! いやいや、そうじゃなくて、あの、いつもやってくる黒装備のイケメン兄ちゃん」
トーゴーのことも、ここの店員なら全員顔見知りだ。しょっちゅう客として来店するので当然、だが、アスランを護衛してるなんて知る由もない。
「ただの友達ってわけじゃなんでしょ? いっつも一緒にいるもんね」
ううむ。それは当たってるようで当たってないような。けど……。
「ああ、はあ。なんか、いい感じになったみたいですよ」
「ほおお。なるほどぉ。うへへ」
何を想像しているのか知らないが、その笑い方はさすがに引いた。
「ショウ! ちょっと来て、なんか変なんだよ。おじいさんが……」
雑誌の入れ替えをしていたアスランが慌ててレジの方へ走ってきた。おじいさんと言えば、よく見かける70代くらいのお客さんがさっき入店していたが。
「どうした? 落ち着け」
僕はレジを野々宮さんに任せて、アスランに付いて行く。その時、店の外にある人物がいたのを目の端で捉えたのだけれど……ATMの前にいたおじいさんの姿に、それはどこかに吹き飛んだ。
ご老人は左手に携帯電話、右手に何枚ものカードを持って、操作ボタンに戸惑っていた。
「お客様、お待ちください。何をご希望でしょうか」
ボタンを押してはみるが、すぐにエラーになってしまう。やり方がわからないようだ。お金の引き落としは、銀行のATMでしかやったことがないのだろう。
「なんかね。お孫さんが困ったことになったって言われるんだ……」
詐欺だ。アスランの言葉に一瞬で理解した。
「アスラン、レジを野々宮さんと代わって。彼女にここに来てもらって」
「あ、う、うん」
アスランには気付いてもらって感謝だが、ここからはベテラン店員の出番だ。すぐにやってきた野々宮さんは僕に小声で伝える。
「警察には連絡したから」
さすが。
「お客様、どこの銀行からお金引き落としますか? まずはそこから決めないと」
野々宮さんはいきなり否定から入らず、まずは時間をかける作戦に出た。相手もテンパってるから、とにかく落ち着かせたい。
「ああっ! なにがなんだが全然わからんのだよ。卓が困っておるのになあ」
「卓君、どうしちゃったんですか? お祖父さんになにか相談してきた? その、電話に」
野々宮さんがカード確認(のフリ)している間に、僕が話しかける。
「おお、そうよ。あいつまずい事件を起こしたみたいで。いや、そんな酷いことじゃないんだ。出来心というか……それで今、弁護士さんが示談金を……」
まさに……あるあるの事件だ。だが、身に降りかかったとき、それを詐欺だと決めつけるのは簡単じゃない。
「卓さんとは話しましたか?」
「もちろんじゃ。あいつ、なんか泣きじゃくって。母さんには黙ってて欲しいと」
「電話番号はいつものでしたか?」
そこでおじいさんは僕を睨みつけた。多分、自分のしていることを否定され、防御本能が働いたのだ。まずい。これでは……。
「弁護士事務所からかかってきたんだから、あいつの電話番号のはずがないだろう。なんだ、あんた。俺の話が信じられんのか? ボケとると思ってんのか?」
「お客様、杉崎様、カードの準備出来ましたよ。ここからはいつものATMと一緒です。あ、お電話お預かりします」
野々宮さんがうまくバトンタッチしてくれた。ATMの説明をしながら、僕にそっと携帯電話を渡す。老人の氏名はカードからわかっている。家族を探して電話しろということだ。
――――スギザキ……杉崎。
まだロックがかかっていなかったのが幸いだった。電話帳ですぐに杉崎卓が見つかり、僕は電話をする。
――――どうか、出てくれ。今すぐっ。
『はい。じいちゃん、どした?』
いたっ! 出てくれた! 僕はすぐさまスピーカーにし、事の次第を説明した。
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