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第101話 誤算(中垣内視点)
しおりを挟む暗い倉庫のような場所。高いところにある窓から、弱い日の光がようやく入り込んでいるのがせめてもの光源。蛍光灯はどれも光を灯していなかった。
そこに力なく立つ二人の男を、どう見ても荒っぽいやくざ風の連中が取り囲んでいた。
「どうすんですか、あんたら。失敗しましたって、それで済むとでも?」
その中で一番偉そうな、チェックのジャケットにサングラス男が、煙草を吸いながら言った。
その横には、鉄パイプと思しきものをトントンと手のひらに打ち付けるスキンヘッドがいる。両手をこれ見よがしに揉む奴、ニヤニヤと嫌な笑いを口元に湛える奴もいた。
「すみませんっ。コンビニ店員が気付いてしまって……」
「今時の店員は訓練されてんだよっ! そんなこともわかんねえのかっ」
「で、でも、このやり方は……」
そっちが提示してきたと言おうとしたが、もう一人の男が気付いて必死に抑えた。
「なにかご不満があるようですが、こちらが立て替えた300万、さっさと返済してもらえないと困るんですよ。こっちも慈善事業じゃないんでね」
「そ、その……お金のことですが……僕たち本当に……」
「おい、よせ。中垣内!」
またもう一人の男が中垣内を止める。
「あんたらが悪酔いして、店をぐちゃぐちゃにして、あげくに女の子たちに怪我させた弁償金と慰藉料だよ。文句あんのかっ」
ガツンと鉄パイプをテーブルに打ち付けられ、数人の男たちがグイッと一歩前に出た。
「さっさと次のカモを見つけろよ。それとも体で払うか? まあ、おまえらじゃどっかで立ちんぼしても仕方ないから、内臓でももらうか」
ギャハハと下品な笑い声とともに携帯電話を投げつけられた。心臓が縮み上がるのを感じる。中垣内はごくりと唾を呑みこんだ。
「あ、あの……実は……僕のアパートに……」
コンビニでちょっとした事件が起こる二日前。祭りの次の日のこと。中垣内は人生で最も面白くない朝を迎えていた。
――――なんだってあんな奴に啖呵を切られなきゃいけないんだ。真柴先輩も石ころ一つで昏倒しやがるしっ。
真柴が役立たずになった瞬間、田中に『許すつもりはない』と言われた。相当ボロボロだったくせにだ。
だが、どういうわけかそのボロボロ男に勝てる気がしなかった。元々腕っぷしに自信がある方ではなかったけれど。あの真柴に敵わないまでも必死に食らいついていた姿に、少なからずビビッていた。
ついさっきには、沙知子の父親が中垣内の部屋にやってきた。来月中に退去してくれと。さもなければ訴えるとまで言われた。冗談ではない。これから就活なのに。
『なんとかします』
けど、そう言うしかなかった。父親からは沙知子と田中が怪我した写真を見せられた。いつの間に撮ったのか。全く油断のならない女だ。
――――引っ越ししたくても金がねえー。
ウンザリしながら寝転がったところに着信が入った。中垣内はポップアップを見て跳ね起きる。
「はい。中垣内です! はい。ホントですか? ありがとうございます。はい、もちろん行きます! よろしくお願いします!」
最初の会社説明会で好感触を得た、田辺グローバル総合商社の担当者からだ。内々定が決まったから、そのお祝いをしてくれるというのだ。
本音では、この会社に進む気持ちはさらさらなかったが、むしゃくしゃしていた中垣内にとって、彼らの誘いはちょうどいい気分転換になりそうだ。そう、その時はそう思っていた。
夜の繁華街。怪しい客引きがいても、担当者がいるので安心しきっていた。着飾った女性のいるクラブに初めて入り、舞い上がるのも仕方ないこと。
いい気分で持ち上げられ、一緒に内々定をもらった学生とシャンパンを飲んでいたのは覚えている。
だが……目を覚まして最初に目にした光景は、まるで身に覚えのない地獄図だった。
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