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第102話 怪しい客
しおりを挟む騒動の翌日、警察官が二人やってきて、僕たちに昨日のことを詳しく聞いていった。後日感謝状が出るので連絡するとのこと。
「私は行くのやめておくね」
「どうしてだよ。アスランだって頑張ったじゃないか」
お客様が途切れた時、アスランが言う。
「いや、大したことはしてないけど、そこじゃないんだ。もし、テレビや新聞に写真が出たらまずいかなと。ここに来てるのは、一応お忍びだしね」
ああ、そういうことか。世の中には外国の王室に興味のある人もいる。その中には、イケメン兄弟王子という(これは以前、ミレンが言っていた)、ラメリアの王子の顔を知ってる人がいても不思議じゃない。
「やっぱりまだ、危険はあるってこと?」
「ああ、そっちはさ。もう、危ない人たちには私がここにいるのバレてるから、今更なんだけど。それよりも、そういう噂が立って迷惑かけるの嫌なんだ」
英国に留学した時も、しばらくはキャンパスにウロウロする追っかけがいたらしい。大学はガードが固いので、すぐに追い出され落ち着いたそうだけれど。
「どこにもオタクはいるんだよ。私もその一人だから、わからないでもないけどね」
ちょっと苦い笑顔をアスランが向けた。王室の人間に危険なのは、なにも権力争いしている身内だけじゃない。パパラッチもいるし、やっかみで危害を加えようとする者もいる。
アスランは小さい頃から誘拐に対抗する訓練を受けているらしい。まあ、トーゴーのような専属SPがいるのは、その危険から守るためだから当然だけど。
「あんたはどこの国から来た? アメリカ? 日本語上手だな」
おにぎりの追加に行ったアスランが客からなにか聞かれている。これも日常茶飯事だ。
常連が多いので、最近はぐっと減ったけれど、店に立ち始めたころは、毎日何度もこういう会話があった。
――――見たことない客だな。あの質問もなんか懐かしいや。
「ああ、はい。南欧です。日本語は日本が好きで、独学で」
「へええっ。凄いじゃん。もうずっとこっちにいるのか?」
客はTシャツにジャケットといったラフな格好。だが、髪はスポーツ刈りというんだろうか。今時ちょっと珍しい。色の薄いサングラスをかけていたが、背の低いやせ型だった。
「いえ、学生なので……夏休みが終わったら帰国します」
――――あ、そうか。そうだよな。
アスランの回答。聞きなれたものなのに、僕は心臓をきゅっと掴まれたような感じがした。
アスランと出会って、突然同居することになって、もう二ヶ月が過ぎようとしている。祭りが終って、明日からは9月だ。
――――約束は、9月初旬ごろまで。つまりもう、10日もない。
アスランとはなにも話していない。多分だけど、二人ともその話をしたくないんだ。
「学生さんかあ。バイトして、偉いじゃないか」
「いえ。これは自分のためなので……みなさんに助けられています」
にしても、なんだかしつこく聞いてくるな。僕も感傷に浸りすぎだ。
「アスラン君。ドリンク入ったよー」
パートさんがいい具合に声をかけてくれた。お客様と言えど、店員がいつまでも話しているのはよろしくない。アスランもスポーツ刈りに会釈してバックヤードに入っていった。
「いらっしゃいませ」
そのグラサン男がレジにやってきた。手にはスポドリを持っている。
「外人さん、みんなと仲良くやってるんだね」
「あ、はい。仕事も熱心です」
僕がアスランを褒めるのはどこか気恥ずかしいが、真実だから仕方ない。
「実はいいとこのお坊ちゃまなんだろ? バイトは社会勉強みたいなものでさ」
なんと鋭い。でも、そんなことを肯定する必要はない。
「どうでしょう? 聞いたことないです」
などと、誤魔化しておいた。なんか食いつくなあ、この人。
「じゃ、ありがとさん」
「ありがとうございました」
男はさっと右手を挙げた。その時、僕の視界に違和感が。彼の手首からちらりと見えたのは、あざやかなタトゥーだった。
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