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第105話 アキ
しおりを挟む土曜日の朝。いつものように僕とアスランは、コンビニのバイトに出かけようとアパートのドアを開けた。
「あれ?」
「おはようございます」
どういうわけか、廊下にミレンがいた。相変わらずシュッとした出で立ちで、銀髪が一層爽やかな感じを増幅させている。
「おはよう……どうしたの?」
「おはようございます。タナカさん」
「あ、ショ……じゃなかったアキ、今日と明日はミレンが護衛なんだ」
「え? トーゴーは?」
「彼はご実家に帰省しています。ホウジだそうですよ?」
と、ミレン。ホウジ? ああ、法事かっ。
「へええっ! そうなんだ。いや、あいつがアスランを置いていくとは驚いたな」
「私がいますからね。たまにはいいんじゃないですか?」
「そうだよ。折角日本に帰ったんだからさ」
「まあ、そうだけど」
意外だったけれど、トーゴーも海外暮らしが長かったから、こういうチャンスはなかったんだろう。
考えてみれば、アスランがラメリアに帰国するまで、もう残り少ないんだ。今、帰省しておかなければってことなんだな。
――――そうか。もう、すぐなんだ……。アスランたちとの生活が終るの。
そのことを考えると、ホッとするのもあるけれど、やっぱり気分が沈む。
「さ、行くよ。アキ」
アキ……。つまり僕のことだ。アスランは黙ってしまった僕に気付いたのかいないのか。
『ショウって呼んでって言ったのは僕だけど……。もう、そのペンネームを使うのは止めようと思うんだ。その、今更だけどさ』
つい先日、僕はアスランとトーゴーに言った。第一、彼らだけにそう呼ばせているのもおかしな話だし、そんなことで小説家になったような気分に浸っても意味がない。ほんと、今更だよ。
『田中』で、と言ったんだけど、それだと言いにくいから名前の『アキ』にするとアスラン。トーゴーは普通に『田中』。
僕の新しいペンネームは本名のままにするつもり。もう、なにも気負わず、背伸びせず。という気概なんだけど……どうなることか。
「トーゴーの実家ってどこだよ?」
後ろからついてくるミレンは、トーゴーと同様気配を消している。全く、彼らの能力は計り知れないよ。
「さあ……教えてくれないんだよね。でも、遠くではないみたい」
アスランは不満そう。よし、あいつが帰ってきたら僕が聞いてやろう。日本の地理なら、さすがに僕の方が詳しいはずだ。
「それよりアキ。明日、バイト休むんだろ? なにかあるの?」
「え? あ、えーと……。ほら、明日は怪我して休んでた風見さんが復帰してくるんだよ。まあ、それで僕があぶれたわけで……」
事故にあった風見さん。突然の離脱に変わって入ったのがアスランだ。感動? の初対面になる。つまりこれは、アスランが辞める日が近づいている証拠でもあった。
「へへえ……まあ、いいけど。知ってるんだよ、私。デートなんでしょ? 沙知子さんと」
「え!? なんだよ……知ってたのか」
「沙知子さんから聞いたよ。映画行くって。うへへ」
見たかった公開中の映画。もう上映が終ってしまう。沙知子さんが明日しか空いてないって言うから……。
王子様らしからぬ下品な笑い方をするアスラン。パートのおばさんみたいだ。この二ヶ月で、庶民化したんじゃなければいいけれど。
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