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第107話 終わりのはじまり(多視点)
しおりを挟む日曜日。
昭和荘の住人たちにとって、誰もが大なり小なり意味を持つ日だ。人生最大の大一番を迎える大貫は別格としても、田中と沙知子は初デートだし、成田は10年ぶりの就活を始める。ミレンもトーゴーに代わってのアスラン警護は今回が初めてである。
「成田さん、今日もお仕事ですか?」
バイトに向かうアスランは、アパートの出口で成田と出会った。いつも通りのきちんとしたスーツ姿だ。アスランもいつもどおりTシャツにデニム。
9月に入ったというのに、まだ残暑は厳しかった。
「あ、いいえ。実は……」
道すがら、成田は今までのことを簡単に説明した。自身の性向や下川とのことは絶妙に濁して。
「そうなんだ。成田さんなら、きっと望みのお仕事見つかりますよ!」
「だといいんですが……もう30超えてますから」
「大丈夫です。なんて、私が言ってもしょうもないですけど、なにかお力になれるなら……私……皆さんとのお別れの時期が近づいているので」
「えっ? そうなんですかっ? それは……寂しくなりますね」
沙知子から、アスランは1時的な同居だと聞いてはいた。だが、やっと仲良く話せるようになったというのに……さすがに寂しく思う。
――――ミレンさんは関係ないかな。でも、あの人もきっと夏休みが終われば帰国するのかも。
ちょうどその頃、田中は沙知子の部屋に行くべく、廊下に出ていた。
本日は早朝から準備に勤しみアスランに突っ込まれていたのだが、デートなんて何年ぶりのことだ。着る服から髪型まで、おろおろするのは仕方ない。
ワックスを使って整えた髪、念入りな髭剃り、それからこの日のために購入したブランドシャツを纏う。ボトムは遊び感のあるワイドパンツにした。
貧乏だからとは言わないが、体形だけは若い頃と変わらない田中だから、孫にも衣装以上ではある。
「はい。今、行きます」
ドアベルを鳴らしてすぐ、2号室のドアが開いた。
「おはよう……」
中から飛び出してきた沙知子は、大人っぽい白ブラウスに襞のある膝下スカート。透け感のある裾からちらりと細い脚が見えるのにドキリとしてしまう。
――――いつも以上に綺麗……と言ったら失礼かな。
などと、相変わらず気の利いた言葉は出ない田中だった。
「あ、大貫さん、今日、例会ですよね」
そんな田中を通常運転とでも言うように、沙知子はアパートを出て行く階下の人物に注目した。
「あっ。そうだ……。今日は最終日だ。今日、決まるんだね……」
デートだけでも気持ちが落ち着かないのに、大貫のことを考えると更に収拾がつかなくなる。
2勝のうち1勝すればと言っても、2敗する場合だって普通にある。同じような境遇で昇段を決められなかった奨励会員が何人もいるのだ。
「私達には祈ることしかできないですね」
「うん。本当に……」
「じゃあ、私達は私達で、映画を楽しみましょう」
ニコッと沙知子が笑みを向ける、きらきらと光る瞳で。デートを楽しもうと言えないのは沙知子のいいところ。
「そ、そうだね。うん、行こう!」
――――アスランたちもさっき出て行ったところだし、追いつくかも。いや、ゆっくり歩こう。時間はまだ十分にある。
手を繋ぎたいところをグッと我慢して、田中と沙知子は階段を下りる。と、その時、目の前の道路を真っ黒なバンが猛スピードで駆け抜けていくのが見えた。
――――なんだ。あのバン。スピード出し過ぎだよ。
その直後、大袈裟な急ブレーキの音が続いた。なんだろう。不穏な気持ちが一瞬、田中の胸を過った。
「誰? きゃああっ! アスランさん!」
「その人は関係ない! 私だけ連れていけ!」
急ブレーキは、アスランと成田が歩くすぐ横で掛けられた。飛び出した数人の男たちが、アスランと成田を羽交い絞めにする。彼らは全員覆面をしていた。
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