王子様と一緒。

紫紺

文字の大きさ
113 / 151

第110話 人質(アスラン視点)

しおりを挟む


 車の中で、アスランは両手を縛られ、目隠しをされた。口にもガムテープだ。
 誘拐時の対処を、王子として幼い頃から教え込まれている。と言っても、こうなってしまっては、大人しく言う通りにするしかない。
 右折、左折、信号待ちと記憶はしたけれど、そこがどこかははっきりしない。ただ、駅前を通ったのは音でわかった。商店街のBGMが聞こえてきたからだ。


「大人しくしてるな。おい、王子様を下ろして差し上げろ」

 バンはどこかに到着して、ドアが開かれた。王子様……こいつらは自分を王子と知っている。どこでその情報を入手したのか。

 ――――やはり母国が……大使館が絡んでいるんだ……。

 アスランはやはりという想いと、残念な気持ちが同時に涌いた。車の中で靴を替えさせられたのもそうだ。靴底にGPSが入っているのを知っている。

「ガムテープと目隠し外していいぞ」

 どすんと椅子……多分ソファーに座らされた。部屋には人が何人かいる。後ろにいた誰かが目隠しとガムテープを取った。ようやく自由に息が出来る。

「ここは……」

 ぼんやりとしていた視界がようやく明らかになる。ビジネスホテルの一室といったところか。
 広くもない部屋に応接セットが一つ。アスランはそこに座らされていた。自分の前には覆面をしたままの男が一人、覗いている髪は短く刈られているよう。ジャケットが不自然に振らんでいるのが気になった。

 その背後にも大柄な男と……痩せた小柄な男が立っている。二人とも顔がわからないよう、目だけをぎょろつかせている。

 ――――痩せた男、多分、コンビニに来た人だ……。

「ゴホン」

 パーテーションの向こうから咳が聞こえてきた。どうやらベッドがあるようで、そこにも誰かいた。

「おまえら、失礼のないようにしろよ。なにしろ、大金を運んでくれる大事な人質だからな」

 こういう場合、大使館では金銭との取引に応じるのか王道だ。だから誘拐があっても警察には連絡しない。それが最も無事に人質を解放できる。
 これはなにも王族に限った話ではない。テレビドラマでは誘拐は成功しないと言うが、大企業や資本家などの誘拐は、多くの場合、金銭での取引で解決させている。警察は知らないだけだ。

「王子様は大人しくしててくださいな」

 この中ではリーダー格であろう男が、アスランに嘲笑の視線を向けた。

「わかっている。だから、私の友人たちには手を出さないでくれ」
「へえ? まあ、それはお国次第でしょうねえ」

 思い切り睨みつけるアスランだが、縛られたままでは何もできない。

「フン。じゃあ、俺たちは交渉に行く。頼んだぞ」
「へえ、兄貴。お任せください」

 痩せた小柄な男がぺこりと頭を下げる。この声、やはりあの時の男だ。この誘拐は、あの時から計画されていたのか。
 半端なやくざみたいな連中だが、それなりに頭があるのだろうか。

「そっちの新入りもっ!」

 リーダー格の男がパーテーションに向かって叫ぶ。

「へええい。了解」

 まるで緊張感のない声とともに、その主がのっそりとパーテーションから姿を現した。背の高い、だが横幅もあるプロレスラーのような男だ。
 革ジャケの上からも盛り上がった筋肉を想像できる。もちろん顔はわからない。サングラスに帽子、頬が膨らんだ顔には黒いマスクをしていた。

「全く、おまえには期待してるんだからな。そうだ、あとで若いのに食事運ばせるから」

 二人の見張りは顎を引いた。これからどのくらい、ここに居るのか。自分は生きて昭和荘に戻れるのか。

 ――――トーゴー、ミレン。私は信じているから……。

 アスランは目を閉じ、キュっと唇を噛んだ。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...