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第112話 既読なし
しおりを挟む「トニカク……スワリマショウ」
通訳が出て行った部屋で、ザイカム中尉がソファーに手を置いて言った。日本語も片言くらいなら話せそうだ。
「成田さん、どうしました?」
僕、沙知子さん、成田さんの順に3人掛けのソファーに座る。沙知子さんが心配そうに成田さんに声をかけている。
「気分が悪いですか? 成田さん?」
「いえ。大丈夫です。ごめんなさい」
僕が覗き込むと、成田さんは少し青い顔して、けれどザイカム中尉をちらりと見た……ような。
――――なにか気になることがあったんだろうか。
「持ってきました」
だが、その思考もすぐに飛んでしまった。ノートパソコンを手にした通訳が戻ってきた。
僕らの視線は、パソコンの小さな画面に集中した。画面の中央には、不安そうな表情のアスランが座っている。後ろでに縛られているのか、肩は背後に流れている。
「アスラン!」
なんだか涙が込み上げて来そうになった。
とりあえず生きているのはわかった。けれど、たった一人で知らない場所に連れ去られ、命の危険に瀕している。彼の心情を思うと、胸が裂けそうに痛んだ。
「それで、拉致された場面を教えてください」
画面に釘付けの僕らに、通訳の冷静な声が被さる。それも大事なことだ。
「それは私からお話しします」
唯一、その場に直接遭遇した成田さんが口を開いた。
「どう? どこか見覚えあるかな」
成田さんが中尉に今朝の恐ろしい出来事を説明している間に、僕と沙知子さんは心細そうなアスランが映る画像を見ていた。
下には時計が表示されていて、今の時間だとわかる。テーブルの上には今朝の新聞が置かれていた。現在進行形の動画なんだ。
時々、テーブルに影が見えるのは、見張りがいるからだろう。音は残念ながら無音だ。
「外が見えないようにカーテン引いてるのよね……。情報としてはそれとテーブル、ソファー……」
「ビジネスホテルっぽいけど、泊まらないしな……」
ミレンはどこにいるんだろう。あれから向こうからの連絡はない。本当に見失ってしまったのだろうか。それならそれで、僕らや大使館になにか言ってきてもよさそうな……。
「ザイカム中尉、ミレンからなにか連絡入ってますか?」
成田さんの説明が終ったようなので、僕はすかさず突っ込んだ。
「いえ……こちらにはなにも。実は、帰省したトーゴーとも連絡が取れていません……アスラン様のお命が掛かっているというのに」
通訳の言葉に、僕らは戦慄した。こんなことは想像もしていなかった。
実はもう、ミレンもトーゴーもアスランの近くにいて、今にも無事奪還するものと、どこかで楽観していたのだ。
「そんな、そんなはずは。ミレンさんは絶対救出するって。私のことも助けてくれたし」
成田さんが今にも泣きそうな顔で言う。泣きたいのは僕も同じだ。なにがどうしてどうなってるんだ。トーゴーは一体どこにいて、何をしてるんだっ!
「とにかくもう一度、画面をよく見ましょう。なにかわかるかも」
中尉達が退出した部屋で、僕らに出来ることは少なかった。
成田さんは画面を食い入るようにして見て、沙知子さんはドアのそばで、職員たちの話に耳をそばだてている。だが、大した情報を得ることは出来なかった。
「ミレンさんから連絡は?」
「いや……あれからは何もない。既読もつかないんだ」
本日何度目だろう。恨めし気にスマホの画面を眺める。
「あの、田中さん。実は……気になることが」
「なに? なにか手掛かり……」
「いえ、ビジネスホテルじゃなくて……さっきの、ザイカム中尉なんです」
僕と沙知子さんはお互いの顔を見合わせた。ミレンの声が脳裏に過る。
『大使館に向かってください。それと、なにか気になったことがあったら教えて下さい』
僕たちをここに向かわせたのは、大使館で不穏な動きがあると考えているからなのか?
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