王子様と一緒。

紫紺

文字の大きさ
115 / 151

第112話 既読なし

しおりを挟む


「トニカク……スワリマショウ」

 通訳が出て行った部屋で、ザイカム中尉がソファーに手を置いて言った。日本語も片言くらいなら話せそうだ。

「成田さん、どうしました?」

 僕、沙知子さん、成田さんの順に3人掛けのソファーに座る。沙知子さんが心配そうに成田さんに声をかけている。

「気分が悪いですか? 成田さん?」
「いえ。大丈夫です。ごめんなさい」

 僕が覗き込むと、成田さんは少し青い顔して、けれどザイカム中尉をちらりと見た……ような。

 ――――なにか気になることがあったんだろうか。

「持ってきました」

 だが、その思考もすぐに飛んでしまった。ノートパソコンを手にした通訳が戻ってきた。



 僕らの視線は、パソコンの小さな画面に集中した。画面の中央には、不安そうな表情のアスランが座っている。後ろでに縛られているのか、肩は背後に流れている。

「アスラン!」

 なんだか涙が込み上げて来そうになった。
 とりあえず生きているのはわかった。けれど、たった一人で知らない場所に連れ去られ、命の危険に瀕している。彼の心情を思うと、胸が裂けそうに痛んだ。

「それで、拉致された場面を教えてください」

 画面に釘付けの僕らに、通訳の冷静な声が被さる。それも大事なことだ。

「それは私からお話しします」

 唯一、その場に直接遭遇した成田さんが口を開いた。



「どう? どこか見覚えあるかな」

 成田さんが中尉に今朝の恐ろしい出来事を説明している間に、僕と沙知子さんは心細そうなアスランが映る画像を見ていた。
 下には時計が表示されていて、今の時間だとわかる。テーブルの上には今朝の新聞が置かれていた。現在進行形の動画なんだ。
 時々、テーブルに影が見えるのは、見張りがいるからだろう。音は残念ながら無音だ。

「外が見えないようにカーテン引いてるのよね……。情報としてはそれとテーブル、ソファー……」
「ビジネスホテルっぽいけど、泊まらないしな……」

 ミレンはどこにいるんだろう。あれから向こうからの連絡はない。本当に見失ってしまったのだろうか。それならそれで、僕らや大使館になにか言ってきてもよさそうな……。

「ザイカム中尉、ミレンからなにか連絡入ってますか?」

 成田さんの説明が終ったようなので、僕はすかさず突っ込んだ。

「いえ……こちらにはなにも。実は、帰省したトーゴーとも連絡が取れていません……アスラン様のお命が掛かっているというのに」

 通訳の言葉に、僕らは戦慄した。こんなことは想像もしていなかった。
 実はもう、ミレンもトーゴーもアスランの近くにいて、今にも無事奪還するものと、どこかで楽観していたのだ。

「そんな、そんなはずは。ミレンさんは絶対救出するって。私のことも助けてくれたし」

 成田さんが今にも泣きそうな顔で言う。泣きたいのは僕も同じだ。なにがどうしてどうなってるんだ。トーゴーは一体どこにいて、何をしてるんだっ!

「とにかくもう一度、画面をよく見ましょう。なにかわかるかも」

 中尉達が退出した部屋で、僕らに出来ることは少なかった。
 成田さんは画面を食い入るようにして見て、沙知子さんはドアのそばで、職員たちの話に耳をそばだてている。だが、大した情報を得ることは出来なかった。

「ミレンさんから連絡は?」
「いや……あれからは何もない。既読もつかないんだ」

 本日何度目だろう。恨めし気にスマホの画面を眺める。

「あの、田中さん。実は……気になることが」
「なに? なにか手掛かり……」
「いえ、ビジネスホテルじゃなくて……さっきの、ザイカム中尉なんです」

 僕と沙知子さんはお互いの顔を見合わせた。ミレンの声が脳裏に過る。

『大使館に向かってください。それと、なにか気になったことがあったら教えて下さい』

 僕たちをここに向かわせたのは、大使館で不穏な動きがあると考えているからなのか?

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...