王子様と一緒。

紫紺

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第113話 指の痛み(大貫視点)

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 今日のこの部屋は、いつも以上にピリピリとしている。触れたら全身が静電気で痺れるのではと思えるほどだ。

「お願いします」

 ピッ、と機械音がほぼ同時に部屋に響く。昨年建てられたばかりの『新将棋会館』は、今もまだ新しい畳のいい匂いがした。

 ――――痛っ……。

 大貫は駒を持つ瞬間に顔を顰める。電車に乗って気が付いた。大貫は中指の腱を傷めていた。
 ハードタイプの鞄を投げた時、持ち手に指が引っ掛かったんだろう。あの時はアドレナリンが湧き出ていて気が付かなかった。
 対局にはリュックを持って行くときもあったが、今日は会社員が持つような黒い鞄にした。スーツに合うように。

 例会の対局日、大貫はスーツを着る日もあったが、たいていはもう少しラフな格好で来ている。
 三段リーグに臨む奨励会員は下は中学生から上は20代後半までいて年齢は様々。ずっとスーツの会員もいるし、今時ファッショの者も少なからずいた。

 だが、今日はそれも明らかに様相が違う。昇段の可能性のあるものは、スーツに身を包んでいた。

 ――――昇段したら記者会見がある。三段のままでは絶対にありえない栄えある場所だ。将棋系の新聞記者さんからインタビューを受ける。もちろん写真撮影もある。

 リュックではなく、鞄にしたのは悪くなかった。そのおかげで成田さんを救えた。アスランは連れ去られてしまったけれど。

 ――――いや、今は考えるな。みんなが僕を送り出してくれたんだ。僕は僕の仕事をするんだ。アスランさんはきっと、みんなが救い出してくれる。

 そんな歓喜の場に、自分のめでたい報告をする。大貫は淡々と序盤を進めた。

 三段リーグの対局は、持ち時間が90分。時間がなくなると一分以内に指さなければならない。指の痛みは指すだけなら問題ないが、都度『対局時計』のボタンを押さなければならないのが少々ネックだ。
 まだプロではない彼らに、記録係のような上等なものは付くはずもない。自らが、対局時計のボタンを押して対局を進めるのだ。

 駒を持つ指とボタンを押す手は同じでなければならない。つまり痛めている右手だ。
 駒の持ち方は、人差し指と中指で駒を持ち親指で軽く支える。もう癖になっているので、指を傷めたからと言って別の持ち方にするのは難しい。盤に集中していればなおさらだ。

 今のところ大貫は、中指を添えるだけ、人差し指と親指で駒を持つように心がけて指している。

 ――――1分将棋になると焦りそうだ。

 だが、勝負は1分将棋までに収まるはずもない。難解な中盤から終盤、第1局の対局は、乱戦のまま1分将棋に突入した。



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