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第114話 二人のパシリ(アスラン視点)
しおりを挟むビジネスホテルらしきところに押し込まれたアスラン。動くことができるのは首から上だけだ。
この場所を伝えるチャンスがあればと、目が届く範囲の情報を得ようと必死だ。
部屋はドアから今アスランがいるリビングまで、短い廊下がある。その両横にクローゼットとバスルームがあるよくある造りだ。
リビングには応接セット、その奥にパーテーションを挟んでベッドが置いてあった。
二人の見張り、小柄な方(おそらくコンビニにやってきた男)は、目の前の椅子にふんぞり返って、スマホを眺めている。確かに手首に刺青が覗いていた。
もう一人はカーテンが閉まっている窓のさんに腰をもたれさせ、こちらをじっと見ているよう。
サングラスをかけているので、本当に自分を見ているのかはわからなかった。太い両手は革ジャケの前で組まれている。
「大使館と話はしたのかな。当然、私の無事の確認を取るはずだが」
アスランはわざとフランス語で言ってみた。この二人がフランス語が話せるとは思えない。大使館が無事を確認してきたときのために、それを確かめたかった。
「ナイストライ」
だが、驚いたことに、窓際にいた革ジャケの男が鼻で笑った。
「王子様、生憎だったな。こいつ、フランス語が出来るんだよ。俺だって、英語ならなんとかなるのにさ」
嘘つけ。と、アスランも革ジャケの男も同時に小柄な男を見た。
「なんだよ……。で? なんて言ったんだ? 王子様は」
「大使館とは連絡取ったのかってさ。王子さん、あんたの無事はあのカメラで送ってる。無音でね。だから電話の必要はないんだよ」
革ジャケの男は飾り棚に置かれたカメラを指さし、くぐもった声でそう言った。アスランはさすがに落胆した。
この場所、商店街から車で5分くらいで、恐らく3階、それくらいしか情報はないけれど、伝える手段すらない。
――トントンッ
アスランががっくりと肩を落としていた時、ドアをノックする音が聞こえた。ハッとする3人。
小柄な男はスマホをナイフに替え、革ジャケの男も身構えた。もしかすると、銃を持っているのかもとアスランは身を伏せる。
『あの……昼飯持ってきました』
だが、その緊張は一瞬で溶けた。どうやらリーダー格の男が言っていた『昼飯』が運ばれてきたらしい。
「なんだ。ああ、おまえたちか。入りな」
小柄な男とともに、覆面レスラーのような目出し帽子をかぶった、二人の若そうな男が白い袋をぶら下げて入ってきた。
――――コンビニじゃないな。お弁当屋さん?
アスランにとっては見覚えのないお店の袋だった。そこから二人は手早く弁当とドリンクをテーブルに置いた。まくり上げたシャツからはタトゥーならず、腕時計が見て取れる。
「君たち、若そうなのに、なんでこんなヤツラと……」
「おいおい、誰が話しかけていいって言った? 色々事情があるんだよ。王子様にはわかるまい」
小柄な男が馬鹿にするように笑った。二人の、どう見ても使いパシリは萎縮したように小さくなっている。
「さっさと行けっ」
小柄な男が顎をしゃくると、二人はすごすごとドアに向かう。男は再びアスランの真向かいに座ると、自分が頼んだのであろう弁当を手にした。
「王子様は悪いがおにぎりだ。手前に縛りなおしてやっからよ。俺が食べ終わるまで待ってろ」
後ろ手に縛られるよりはマシだが、縄を解くつもりはないらしい。
「あ、おまえら……」
部屋から出ようとする二人を、革ジャケの男が追いかけた。
「これと同じタバコ買ってきてくれ」
廊下の向こうから、そんな一言が聞こえてきた。
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