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第115話 奈々味屋
しおりを挟む騒ぎが収まる筈もないラメリア大使館。その1室で、僕らは言い知れぬ不安と緊張の中に居た。
「ザイカム中尉? 彼がなにか?」
成田さんが、僕に気になることがあると言ってきた。それがなんであってもありがたい。けれど、アスランの味方であるはずの彼になにが……。
「実は、あっ! ちょっとこれ! 沙知子さん!」
話し始めようとした時、偶然ではあるけれど、アスランが映った動画に変化があった。誰かが入ってきたのだ。
「このお弁当屋さんって」
二人の新たな登場人物は、昼ご飯を買ってきたのだろう。テーブルの上にお弁当やおにぎり、ドリンクを並べ置いている。
「この袋、駅向こうのお弁当屋さんのよね?」
成田さんは沙知子さんに同意を促している。僕が覗き込むと、そこには『奈々味屋』の文字と店のロゴが。奈々味屋、買ったことのない店だったが、場所はなんとなく覚えている。
「そうだわ。ええ、唐揚げ弁当が美味しい……」
「じゃあ、そこの近くにいる可能性が高いってことかっ」
あの辺りにあるビジネスホテルにアスランがいる。その可能性は限りなく高いはずだ。警察なら、周辺の防犯カメラを探ることができるはずなのにっ。
――――いや、ラメリアの諜報部は優秀だ!
「ミレンに……いや、大使館の誰かにこのことを……」
「待って!」「待ってください!」
だが、意外にも二人の女性から同時に止められてしまった。ザイカム中尉を気にしている成田さんはわかるけど、なぜ沙知子さんが?
「今のところ、もう1度見れますか?」
沙知子さんが画面を指さして言う。
「え? ああ、もちろん」
同時進行の動画でも、巻き戻すのは可能だ。
「そこっ。そこで止めて……」
「どうしたの? この、時計?」
それは、弁当をテーブルに並べている男の腕が映っている箇所だ。新たに入ってきた、だが顔は全く見えない、男の腕時計。
沙知子さんが息を呑んだ。
「間違いない。これ、中垣内さんの時計だわ」
「な、なにっ……」
「あっ!」
僕が絶句したと同時に、沙知子さんのヒュッと息を吸う音が聞こえた。
「わ、私のせいだ……私、あいつにアスランさんが由緒ある出だと言ってしまって……」
今にも崩れ落ちそうな沙知子さんを、僕は思わず支えた。
「そんなこと関係ないよ。なにより、こんな恐ろしい犯罪に加担するなんて信じられん! なんてヤツ……」
あの、コンビニでお爺さんが騙されそうになった時、あいつがいたのは間違いじゃなかった。これも関係があるのか?
ろくな奴じゃないとは思っていたけど、こんな大それたことをするとはさすがにワケがわからない。
『ボコボコにされていた』
トーゴーの言葉を思い出す。誰かに脅されているのか?
――――いや、そんなことはどうでもいい。これを誰かに伝えなければっ。
「田中さん、ミレンさんにこのことを伝えてください。大使館の人は……信用できない」
「成田さん、なにがあったんですか?」
「あの、ザイカム中尉って人。アスランさんが連れ去られた車と、同じ匂いがしたんです」
立て続けにもたらされる衝撃の事実。僕も沙知子さんも、金縛りにあったかのように動けなかった。
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