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第116話 現実は小説より刺激的
しおりを挟む成田さんの言葉通り、僕は今、ミレンに伝えられること全てをメッセージにして送信した。
彼がどんな状態でいるのかわからないので、出来るだけ短く簡潔に。
「あの黒いバンのスライドドアが開いた時、ふわっと香ったんです。でも、それと同時に男の人たちが飛び出してきて……その後はもう、怒涛のようで」
その時のことを思い出したのか、成田さんは大きく息をつく。
「なので、匂いのことは全然忘れていたんですけど」
大使館にやってきて、ザイカム中尉が現れた。僕と同様、握手を求められた成田さんは、そこであの時の香りが蘇った。
「ローズマリーの香りなんです。車の芳香剤としては珍しいですが、最近はハーブも人気なようで……」
「同じ匂いだった?」
「間違いないです」
「だとすると、あの車にザイカム中尉は乗っていたということ?」
沙知子さんが訝し気に尋ねる。
「アスランが拉致された時に乗っていたかはわからないが……少なくとも今日、あの車に乗ったんだろうな」
トーゴーやアスランから、ラメリアの政情は不安定極まりないと聞いていた。アスランの親族に次期王位を狙う人がいるとのことだったけど。
――――ザイカム中尉は、その誰かに付いてる人ってことなのか? アスランたちの味方じゃない?
「あ、ミレンから返事が来た!」
「なんて書いてます?」
成田さんと沙知子さんが、一斉に僕のスマホを覗きに来た。
「ま、待って……えっと……」
『中尉から目を離さないで。動きがあったら知らせてください』
僕らはそのメッセージを見て、しばし黙り込む。それから、三人で顔を見合わせた。
「やるしかないわ。大丈夫よ。みんなバタバタだから、私達がウロウロしてても気にしないわよ」
と、いつも大人な成田さんが、全くらしくない勇ましいことを言い出した。
「私が行きます。フランス語、なんとかわかるし」
今度は沙知子さんがギョッとするようなことを言う。
「ま、待ってください。闇雲に行ったら、ここに戻されるか追い出されます」
今にも飛び出そうとする二人を僕はなんとか引き留めた。ラメリア大使館員たちが、僕らに手荒な真似をするとは思いたくないが、ザイカムは怪しいし、その仲間もいるかもしれない。
「まず、今あいつがどこにいるか、僕が調べてくる。二人はアスランの様子を見てて」
いいとこ見せようと、思っていないとは言わないが、正直心臓がバクバクだ。
僕の人生にこんな場面が訪れるとは想像もしなかった。現実は小説より刺激的だ。僕はそっとドアを開け、廊下へと足を踏み出した。
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