王子様と一緒。

紫紺

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第117話 おまえしかいない(ミレン視点)

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『ザイカム中尉が黒いバンに乗っていた可能性あり。誘拐犯に中垣内がいる。ホテルは駅向こうの奈々味屋周辺では?』

 田中からの要領を得たメッセージに、ミレンはひゅうっと口笛を吹いた。
 驚くべき情報収集能力だ。本職のスパイも真っ青。
 彼らなら、直にホテルも判明してしまいそう(メッセージは日本語だが、アプリで英語に翻訳している。ミレンも漢字など読むのはハードルが高い。逆にミレンのメッセージも日本語に翻訳したものを送っている)。

 ――――そうなると、ちょっと困りますね。彼らのことだから、絶対出動してきそうだ。

 ミレンは現在、とあるコンビニの駐車場にいる。
 さっきまではビルの屋上に陣取り、田中達が見ているアスランの動画を見ながら待機していた。その動画は片時も目を離すことはない。

 ライダージャケットに黒のハードシェルリュックを背負い、甘いマスクなのに視線だけは険しい。
 そこに、青い顔をした若い男が二人、ふらふらとやってきた。

「いつまでこんなことやってるんだよ、俺たち」
「仕方ないだろ? とにかく金はもらったんだがらタバコ買わないと」

 二人は低い声で話しながらコンビニに入っていく。どちらの顔にも青紫に変色したあざがあり痛々しい。その後を追うように、ミレンも店内に入っていった。



『ラメリアで信用できるのはおまえしかいない』

 刺青の男を追った日、いつもの昭和荘の屋上でトーゴーに言われた。任務上のことなのに、ミレンの胸は動悸を一つ跳ねさせる。

『それは……光栄に思いますね』
『まぜっかえすな。俺は真剣だ』

 空には大きな月がまるで太陽にように輝いている。昼より夜の方が明るいと言ったのは印象派の画家だったろうか。
 その月の光に照らされているトーゴーのキリリとした二つの瞳が自分を見つめている。その燃えるような眼差しに、ミレンはつい俯いてしまう。

 ――――月の光で良かった。太陽の下なら、自分の頬の色がトーゴーにわかってしまう。

 その意味が理解できるかはわからないが。

『光栄に思うのは嘘ではないです。それで……どうしますか?』

 尾行した男が入っていったのは、田辺金融という金貸し業の会社だった。だが、調べてみるとまともな金融業者ではない。
 昔で言うサラ金、高利貸し金融で、反社勢力がバックにいる相当危ない会社だった。少し前にコンビニであった高齢者を狙った詐欺も、彼らが関係しているのかもしれない。

 もし彼らが何らかの情報を得て、アスランに危害を加えようとしているのなら。その対処は難しくない。
 大使館から政府を通じて警察に情報を流し、さっさと別件でもなんでもいいから片付けてもらえばいい。
 そして、アスランは有無も言わさず帰国だ。けれど、事はそう簡単にはいきそうもなかった。

『俺たち二人でやり遂げるしかない』

 輝く月の下で、トーゴーは自らに言い聞かせるように言った。


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