王子様と一緒。

紫紺

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第121話 ミレンの頼み事

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 挨拶もせず、僕らは大使館をまるで逃げ出すように(いや、まさに逃げ出したんだが)退去した。
 成田さんによると、ミレンにはホテルのことも、ザイカムが話していたことも、全て連絡済みだという。

 ――――予定では15時にお金を用意してどこかに持っていくことになっていた。だが、ザイカムはその30分前が自分の時間だと。これが意味することは……。

 早めに動いてアスランを救出する? それなら問題はないが、さっき僕を捕まえた男のことといい。そんなうまい話ではなさそうだ。

「とにかく、そのホテルまで行きましょう。きっとミレンと合流できるはずです」

 僕らが向かっては足手まといになる可能性はある。だが、なにかしら役に立ちたいという僕と彼女たちの気持ちを抑えることはできなかった。さっきからアドレナリンが出まくりだ。
 そしてそこに、ずっと待っていたミレンから着信が。

「ミレン! そっちはどうなってるんだ? 成田さんが場所を突き止めたんだ。それに、ザイカム中尉がもう大使館をっ」

 なんの前置きもなく、僕はスマホに向かって叫ぶ。女性陣のためにスピーカーにし、3人でスマホを囲んだ。

『恐れ入りましたよ。まあ、それはいいんです。ただ、間違ってもそのホテルに行こうとはしないでください』

 そのつもり満々だった僕らは、完全に出鼻をくじかれた格好だ。けど、大使館を追い出され、熱々になっていた僕の頭を、ミレンはいつも通りのトーンで一瞬にして覚ませてくれた。

『もうザイカム中尉はそっちを出たんですね』
「あ、うん。なんか重そうなアタッシュケース持ってた。お金かな」
『だといいんですが……いえ、助かりました。本当に』

 朝の電話を思えば、ミレンの声はずっと落ち着いている。早鐘のようだった僕の心臓も、徐々にいつもの調子を取り戻してきた。

「ミレン、今どこにいるんだ? もしかして、計画通りに進んでいるのか?」

 少しの間。それからミレンが小さく息をついたのが耳に届く。

『今からが正念場ですよ。絶対に落とせない』
「あの、まさかと思うけど、トーゴーと連絡が取れないなんて嘘だよな? 僕たち、秘密は守るから、本当のことを教えてくれっ」

 ここでもまた、息を吸うくらいの間があった。僕らの頭は、もうぶつかるほど密接している。

『僕が言えるのは、心配はいらないということです。言ったでしょ。トーゴーはアスランのためなら何でもすると』

 半ば投げやりな言い方で、ミレンが言う。やはり、言えないことがあるのか。僕らは顔を見合わせる。皆、不安と不満が入り混じったような何ともいえない表情だ。

『それより、皆さんにやって頂きたいことがあります』
「なに? 僕らだって出来ることならなんでもするよ」
「言ってください。ミレンさん」

 だが、ミレンのその一言で再びスマホに食いついた。二人の女性陣も声を揃える。

『威勢がいいですね。でも、落ち着いてよく聞いてください……お願いしたいのは……』

「え……」

 それは、僕も沙知子さんも、もちろん成田さんも、想像すらしなかったミレンからの頼み事だった。



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