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第122話 味方(アスラン視点)
しおりを挟むビジネスホテルの一室。アスランはまた後ろ手に縛られてしまった。足は自由だが、サイズの合わない靴に違和感しかない。
目の前の刺青男は、相変わらずスマホをいじっている。もう一人の大柄な男は、タバコがないせいか手持無沙汰のよう。
ちらちらとアスランの方に目をやりながら、カーテンを少しだけ開いて外を覗いたりしている。
「あれからなんか、連絡あったか?」
大柄な男が刺青の男に尋ねた。
「ああ? ああ、おまえスマホ厳禁だったな」
「暇で仕方ない」
ムッとして言う。どうやら、誘拐犯たちの連絡はこの小柄な刺青男だけが取れるらしい。他の誰かと通じていては困るというのがその理由か。
――――だとすると、やはり銃は持っていないか。この目の前の男は、銃ではなくナイフを持っていた。
最悪なことは免れるかもしれない。とアスランは思う。それでも、大柄な男には、一発でのされてしまう自信はあった。
「ま、新参者は仕方ないさ。ああ、時間通りだ。なにも変更はないから心配いらねえ」
「そうか」
――トントン。
男が頷いたその時、また玄関のドアを叩く音が。
「ん? なんだ?」
さっと身構える二人。だが、大柄な男がのそりと動いた。
「多分、タバコだろ。俺が出るよ」
そいつはドアに繋がる短い廊下に向かった。ドアを開ける音がしたが、どうやらチェーンは嵌めたままのよう。ガチャンと金属が当たる鈍い音がした。
「タバコ買ってきました」
アスランからは見えないが、さっきの若い連中が頼まれた煙草を買ってきたようだ。
「おお、サンキュー」
男は煙草を受け取ると、再びドアにカギをかけ戻ってきた。
「おまえ、若いのにタバコ吸うんだな。今時じゃねえなあ」
「高級煙草オンリーだけどね。ここが禁煙室じゃなくて良かったよ」
「ケッ、俺は煙を吸う気はないから、向こうで吸ってこい」
「はいはい」
意外にも刺青男は煙草を吸わないらしい。大柄な男はパーテーションの向こうに消えて行く。窓を少し開けて煙を逃がしているようだ。それでもハーブの香りが混ざった煙草の匂いが漂ってくる。
――――ん?
その時、なんだか背中をツンツンしてくるものを感じた。
アスランの背後はカーテンが閉められた窓だ。ソファーの背もたれはそんなには高くないので、ちょうど肩甲骨あたりから上はなにもない。
つんつんしてるのは指というより、なにか先の曲がった針金のようなもの。それは、ゆっくりと文字を書いた。
――――AMI……(フランス語で)味方。
誰かが窓の外にいる。自分の味方が。アスランは涙が出るほど嬉しかった。
気丈には振る舞っていたが、今にも泣き叫びそうなほど不安で怖かった。なによりも自分を命がけで守ってくれる、そして自分にとって一番大切な人が、そばに居なかった。
――――でも、安堵や嬉しい表情を見せてはいけない。
アスランは唇を真一文字にして耐える。その時、縛られた手の上に、何かが落ちてきた。
――――ナイフだ。
冷たい刃先が指にあたる。縛られているのは普通の縄だから、小さいが十分に切れる。今までこういった訓練ももちろん行ってきた。このナイフはその時使ったものと同型だ。
つまり……。
――――来てるんだ、近くに。よし、やってみせるよ。
アスランはゆっくりと顔を伏せる。あまりにも嬉しくて、思わず笑みがこぼれそうになったから。
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