王子様と一緒。

紫紺

文字の大きさ
125 / 151

第122話 味方(アスラン視点)

しおりを挟む


 ビジネスホテルの一室。アスランはまた後ろ手に縛られてしまった。足は自由だが、サイズの合わない靴に違和感しかない。

 目の前の刺青男は、相変わらずスマホをいじっている。もう一人の大柄な男は、タバコがないせいか手持無沙汰のよう。
 ちらちらとアスランの方に目をやりながら、カーテンを少しだけ開いて外を覗いたりしている。

「あれからなんか、連絡あったか?」

 大柄な男が刺青の男に尋ねた。

「ああ? ああ、おまえスマホ厳禁だったな」
「暇で仕方ない」

 ムッとして言う。どうやら、誘拐犯たちの連絡はこの小柄な刺青男だけが取れるらしい。他の誰かと通じていては困るというのがその理由か。

 ――――だとすると、やはり銃は持っていないか。この目の前の男は、銃ではなくナイフを持っていた。

 最悪なことは免れるかもしれない。とアスランは思う。それでも、大柄な男には、一発でのされてしまう自信はあった。

「ま、新参者は仕方ないさ。ああ、時間通りだ。なにも変更はないから心配いらねえ」
「そうか」

 ――トントン。

 男が頷いたその時、また玄関のドアを叩く音が。

「ん? なんだ?」

 さっと身構える二人。だが、大柄な男がのそりと動いた。

「多分、タバコだろ。俺が出るよ」

 そいつはドアに繋がる短い廊下に向かった。ドアを開ける音がしたが、どうやらチェーンは嵌めたままのよう。ガチャンと金属が当たる鈍い音がした。

「タバコ買ってきました」

 アスランからは見えないが、さっきの若い連中が頼まれた煙草を買ってきたようだ。

「おお、サンキュー」

 男は煙草を受け取ると、再びドアにカギをかけ戻ってきた。

「おまえ、若いのにタバコ吸うんだな。今時じゃねえなあ」
「高級煙草オンリーだけどね。ここが禁煙室じゃなくて良かったよ」
「ケッ、俺は煙を吸う気はないから、向こうで吸ってこい」
「はいはい」

 意外にも刺青男は煙草を吸わないらしい。大柄な男はパーテーションの向こうに消えて行く。窓を少し開けて煙を逃がしているようだ。それでもハーブの香りが混ざった煙草の匂いが漂ってくる。

 ――――ん? 

 その時、なんだか背中をツンツンしてくるものを感じた。
 アスランの背後はカーテンが閉められた窓だ。ソファーの背もたれはそんなには高くないので、ちょうど肩甲骨あたりから上はなにもない。
 つんつんしてるのは指というより、なにか先の曲がった針金のようなもの。それは、ゆっくりと文字を書いた。

 ――――AMI……(フランス語で)味方。

 誰かが窓の外にいる。自分の味方が。アスランは涙が出るほど嬉しかった。
 気丈には振る舞っていたが、今にも泣き叫びそうなほど不安で怖かった。なによりも自分を命がけで守ってくれる、そして自分にとって一番大切な人が、そばに居なかった。

 ――――でも、安堵や嬉しい表情を見せてはいけない。

 アスランは唇を真一文字にして耐える。その時、縛られた手の上に、何かが落ちてきた。

 ――――ナイフだ。

 冷たい刃先が指にあたる。縛られているのは普通の縄だから、小さいが十分に切れる。今までこういった訓練ももちろん行ってきた。このナイフはその時使ったものと同型だ。
 つまり……。

 ――――来てるんだ、近くに。よし、やってみせるよ。

 アスランはゆっくりと顔を伏せる。あまりにも嬉しくて、思わず笑みがこぼれそうになったから。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...