王子様と一緒。

紫紺

文字の大きさ
126 / 151

第123話 その頃の現在地(多視点)

しおりを挟む


 ☆その頃の田中達。

 田中、成田、沙知子の3人は、タクシーに乗っていた。

「タクシー代、大丈夫ですか?」
「あ、私、カード持ってますので」

 沙知子の問いに、すかさず成田が応える。田中はバイト生活、沙知子は学生。唯一社会人の成田も、来月早々に退社するのでニート突入だ。
 しかし、それでも成田に頼るしかなかった。

「すみません……よろしくお願いします。後程お返しします」

 情けない。心の底から田中は思った。

「大丈夫ですよ。大使館からお釣りがくるから」

 正確には、大使館からお釣りを出すほど返ってくるという意味。成田は強気にそう言った。

「こんな時になんですが……大貫さん、第1局は駄目だったみたい……」

 沙知子がスマホ画面を見て残念そうに言った。ミレンの依頼に沿い、タクシーに乗り込んだが、アスランのことが気にならないはずはない。
 それでもどうすることもできないので、とりあえず気を紛らす意味もあり、朗報を期待した。

 ――――こっちも厳しいかっ。

「もう一局あります。決まったのは一人なので」

 だが、田中は思い直したように言う。

「今夜は大貫さん昇段とアスラン解放でお祝いです」

 力強く続けた田中に、二人も頷いた。


 ☆その頃のミレン

 ミレンは再び、最初に陣取っていた低層ビルの屋上にいた。横には空になっているハードシェルリュックが置かれている。
 その場所からは、閉業中のビジネスホテルの表玄関と、駐車場に続く裏口の両方が見えた。

 ――――あと10分。こちらは準備万端ですが、さて。

 全てが間に合えばいいのだけれど。ミレンはちらりとタブレットを見る。アスランの表情が少し和らいでいるように見えるのは、希望的観測だろうか。

 ――――いえ、間違いなく、事は進んでいる。

 田中達もそろそろ目的地に着くはず。改めてミレンはビジネスホテルを見下ろす。そこに、アスランを連れ去ったものと同じ黒いバンが、駐車場に滑るようにして入ってきた。

 ――――さあ、役者が揃ってきました。いよいよ最終章の開幕です。

 ミレンは屋上の床に伏せ、スコープを覗く。素早く照準を合わせた。


 ☆その頃のアスラン

 後ろでに縛られたままのアスランは、姿勢を崩さず、慌てずにナイフを握る。縛られてからずっと、少しでも緩めようとしてきたかいがあり、ナイフを縄に当てる余裕ができていた。
 それでも手首を傷つけずに切るのは難しい。しかもポーカーフェイスでやる必要があるのだ。

 ――――大丈夫。トーゴーがコツを教えてくれた。その通りにやれば。

 少しずつ縄に亀裂が入っていく。一本切れれば後は力を入れれば抜けるはず。

 ――――よし、行けるっ!

 縄が切れる。その時、けたたましくドアを叩く音が部屋中に響いた。


 ☆その頃のトーゴー

  ? 


 ※ここからしばらく、三人称多視点の文章となります。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...