王子様と一緒。

紫紺

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第129話 やんごとなき兄弟

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『皆さんにやって頂きたいことがあります』

 数10分前、僕らはミレンからそう言われた。なにを頼まれるのか、僕はごくんと唾をのんだ。だが、それは僕らの誰一人もが考えもしなかった頼み事だった。

『空港に迎えに行って欲しいのです。ジョルジュ王子を』



 僕らはタクシーに乗り、羽田空港に向かった。飛行機は既に着陸しており、ラメリア王室のプライベートジェットだから税関も早い。一行はミレンからの連絡を待っているとのことだった。

 羽田空港内にあるプライベートジェット専用ターミナルは、驚くほどスムーズに入ることが出来、全てにおいて優遇されているのだと実感。
 まあそれはさておき、僕らはタクシーを飛び降りると、彼らが待っているであろうラウンジへと向かった。

「せめてネクタイしてたかった」
「持ってるんですか? 田中さん」

 と、成田さんから鋭いツッコミ。けど、今日はデートのつもりだったので、いつものヨレヨレ姿じゃなくて助かった。ワックスつけた髪はもう、ぼさぼさになってたけど……。

「あの、僕らミレンに頼まれた……」

 ラウンジの前で立っているボディーガード風の男性に話しかける。もちろん日本語だ。すると、体格のいい彼の背後から、にこやかな笑みを浮かべた女性が現れて。

「はい、田中様方ですね。お聞きしております。少々お待ちください」

 と、はきはきとした日本語が返って来た。ササッとラウンジの奥に行くと、そこで難しい表情で談話中の御一行様になにやら告げた。

 ――――アスランのお兄さん。ラメリアの皇太子。

 すっくと立ちあがる姿勢の良い青年。僕らの方に向かい歩いてきた。アスランと同じ美しい金髪と青い瞳。筋の通った鼻も形のよい唇も凄く似てる。
 ただ、30代という年齢からか、皇太子という責任からか、ずっと大人びて柔らかい印象だ。

「素敵……」

 ほおっというため息が僕の隣から聞こえた。沙知子さんだ。まあ、仕方ないよね……ちょっと複雑だけど。

「弟がずっとお世話になっておりました」

 握手とともに、なんてことを皇太子に言われてしまったっ(もちろん通訳さんを通じてだけど)。でも、こんなことで舞い上がってる場合じゃない。

「急ぎましょう。アスランがピンチですっ」

 僕の言葉を通訳さんが訳すのも待たず、ジョルジュ王子は、険しい顔つきになり、頷いた。

「こ、これに乗るのか」

 ターミナルに出ると、待ち受けていたのはでっかい黒塗りの高級車。大使館の車には乗ったことがあってそれも大概高級車だったが、これはけた違い。リムジンだ。

「さあ、行きましょう!」

 なんとジョルジュ王子は日本語でそう言った。王子と僕ら3人、通訳の人が乗り込む。その後はリムジンとは思えないほどのスピードで高速を駆け抜けた。



「私の弟を侮辱するのは、それまでにしてもらえるかな」

 僕らは、ちょうどザイカムと大使館で会った背の高い男が拘束されているさなか、駐車場に着いた(全編フランス語なので、さっぱりだったが、後で内容はおしえてもらった)。
 突然の兄の登場に驚いた表情のアスラン。

「アスラン……無事で良かった」

 駆け寄りたい気持ちはあったけれど、それは遠慮した。だって、久々の兄弟、やんごとなき兄弟の再会なんだから。

「兄上!」
「アスラン、よく無事でいた」

 ヒシッと抱き合う二人。その傍らで、皇太子のお付きの人たちがザイカムを捉える。彼もようやく観念したのか、俯いて唇を噛んでいた。

「間に合ったようですね」
「ミレン!」「ミレンさん!」

 ハードシェルリュックを担いだミレンがどこからともなくやってきた。満足そうな笑み。どうやら、任務を完璧に遂行したようだ。正念場を越えて。



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