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第132話 黒幕
しおりを挟む結局、アスランとトーゴーは、僕も前に行った病院に連れ去られてしまった。
今回は前回よりも、明らかにアスランが怪我したり精神的に参ってるから仕方ない。ジョルジュ皇太子も一緒に向かった。
「僕は大使館に戻ります。後始末があるのでね」
トーゴーとミレンは今回のことで、ザイカムと共にフィリップ殿下に付いていた連中を炙り出していた。
あの角刈り男は『田辺金融』の社長でラメリアとは関係ない。つまり親分で、ザイカムにちゃっかり利用されていたようだ。
「黒幕はリヨン大佐だったんだってね。ジョルジュ皇太子から聞いた」
彼の名前は僕も聴き覚えがあった。彼の一言で、アスランたちは来日を決めたんだ。
リヨンはこの国が平和ボケしてて軍力も外交も弱いと散々デスり、日本なら好き勝手出来ると踏んで選んだと言ったそうだ。これは空港からの道すがら、リムジン内でジョルジュ皇太子から聞いた話。
――――リヨン大佐って、アスランが信用してた人なのにな……。
リヨンは本国で、誘拐発覚と同時に逮捕された。国王主導の取り調べで、あっさり仲間の名を吐く。
大使館にはジョルジュ王子と共に来日したラメリア国家警察が入っていて、リヨン派の連中は確保されているとのことだった。
「ああ。元々、ザイカムが来日したのもリヨンの指示だったからね。さすがのトーゴーもショックを受けてたよ。あ、そうだ。あの、103号室の彼もね。まあ役に立ったんだよ」
「え? それって、中垣内さんがですか?」
声を上げたのは沙知子さんだ。そう言えば、すっかり忘れていたけど、あいつも誘拐犯一味の中にいた。
「馬鹿なことして脅されてたんだよ。だからって、許されることじゃないけど。助ける代わりに僕とトーゴーの連絡係をしてもらった。今は警察署に保護されているよ。逮捕とも言うけど」
そもそもアスランが金持ちの御子息(実は王子)だと田辺金融にご注進したのは中垣内だ。彼らの暴力や詐欺を働くのから逃げる苦肉の策だったのだが。
解放されるはずもなく、多額の借金の代わりに働けと脅されいいように使われた。だが、トーゴーが扮する見張りに言われた煙草を買いに来た時、ミレンに掴まった。
『君ら、このまま闇の世界で生きる覚悟はあるんですか?』
綺麗な顔ですごむミレンに、二人の若者はぶんぶんと首を横に振った。奴らから逃れるには警察に逮捕を覚悟で出頭するしかない。その後のことは、ラメリア共和国の名をかけて最低限守ってやると。
『このたばこを間違いなくさっきの見張りに渡してください。それから、非常口のドアを開けておくこと。私はちゃんと見てますので。裏切ったら、容赦しません』
そのたばこにミレンはメモを忍ばせた。『30分前に決行される』と。
「あっ! 速報出ました!」
突然の沙知子さんの明るい声。中垣内の話は聞きたくない、とでも言うような。
ミレンの話に耳を傾けてはいたが、彼女はスマホの画面にも注視していた。
「大貫さん! 四段昇段です!」
わああっ! と、その場にいた4人は歓声を上げた。思わず頭をくっつけてスマホの画面を見る。
――さきほど、三段リーグの結果が出ました。大貫三段が勝利し、13勝5敗で四段昇段が決定。午前中に決めた吉永三段とともに、新棋士となりました。記者会見は……。
「ゆ、ユーチューブで配信されるはずだ。アパートに帰って見よう!」
僕らはもう浮足立っている。アスランも無事救出され、大貫さんもついに大願成就だ!
「はいはい。では、僕はもう行くので」
「あ、ミレンさん。今日は帰って来られますか? みんなでお祝いしないとっ」
沙知子さんが真っ赤な頬で叫ぶように言う。嬉しくて高揚しているのが丸わかりだ。
「うーん。いや、無理ですね。でも、明日には。トーゴーたちも明日には帰ってくると思いますよ。昭和荘に」
明日。明日になったら。ミレンはにこりといつもの柔らかい笑顔を向ける。そして、他のラメリアの人たちと去っていった。
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