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第133話 夢見ていた瞬間(アスラン視点)
しおりを挟む「それじゃあ、私はホテルに行くよ。明日の朝、会おう」
「はい。兄上。はるばる日本まで来て下さって、感謝しかありません」
いつぞやも泊った病院の特別室。既に病衣姿のアスランとジョルジュが今日何度目かの握手をする。からの軽く抱擁。
「アスラン。これは私の主観だが……」
「はい?」
ジョルジュはアスランの腕に手を置いたまま、目を見て話す。
「私は、おまえの気持ちは尊いものと思っているよ。その気持ちを恥じずに、大事にして欲しい」
「あ、兄上……」
「じゃあ、三日後の食事会、楽しみにしているよ」
食事会。それは、ジョルジュが昭和荘の面々と食事をしたいと申し出てきたのだ。
「は、はい。よろしくお願いします」
ジョルジュはにこやかな表情のまま、側近たちと共に病室を後にした。
今夜は仕方なく病院食。さきほどまでの検査では異常は見当たらなかった。両手首には包帯が巻かれている。
「みんなで会食か。ガチガチの田中を見るのは楽しみだな」
ベッドの横で、トーゴーがペットボトルの茶を飲んでいる。夕食のおにぎりは既に食べ終わっていた。
「そうだね……でも、それが終ったら……」
病院食の味はともかく、アスランはさすがに疲れたのか、食が進まないようだ。ふうっと小さくため息をついた。
「仕方ないさ。来るべき時がきたんだ。終わりはどんなことにもある」
「そうだけど……楽し過ぎたからね」
いよいよ、アスランが帰国の途につく日が来たのだ。元々、さ来週には大学の後期が始まる。今回のことに関係なく、日本での生活は終わりが見えていた。
「俺も楽しかったよ」
「ほんと?」
「ああ、ミレンを含めて昭和荘の連中との関係は面白かったしな。でも、おまえが何度も危ない目に合うから、気が気じゃなかった」
「そうだね。でも、私は……」
アスランはテーブルをそっと後ろに下げる。それから、ゆっくりと顔を上げ、トーゴーを見た。
『自分の気持ちを大事にして欲しい』
ジョルジュはいつ知ったのだろう。弟の想いに。
「トーゴーを信じていたから」
「ああ、当然だ。俺はおまえのゴ……」
「そうじゃないよ。トーゴー。護衛なんて関係ない」
「アスラン?」
「私はトーゴーが好きなんだ。それだけだから……知ってるだろ……?」
意を決したように、アスランが言葉を繋ぐ。トーゴーはただ黙って聞いていた。
「トーゴー。あの、キス、してくれないか? その、嫌じゃなかったら……私はもう、気持ちを隠さないと決めたんだ。だから……」
言ったものの、アスランは恥ずかしさでトーゴーの顔が見ていられなく俯いた。心臓がどっかに飛び出していきそうだ。その耳に、フッとトーゴーが吐く、小さな息が聞こえた。
「アスラン」
すると思いがけず、トーゴーの大きな手が自分の顎にかかった。
「嫌なものか……」
両手で頬を包み込むようにして上へと導かれる。アスランはそっと目を閉じた。柔らかい唇が自分のそれに触れる。
何年も前からずっと、夢見ていた瞬間がようやく訪れた。
――――青い空と海……それに白い海鳥。
二人の脳裏に、あの日の美しい光景が浮かんで消えた。
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