王子様と一緒。

紫紺

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第135話 流れ星(ミレン、成田視点)

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 翌日の午後5時。田中、アスラン、トーゴー、成田、それにミレンは大家代行である沙知子の部屋にいた。彼女のリビングで、祝杯を挙げるためだ。

「大貫さんの四段昇段と、アスランさんの無事を祝って乾杯!」

 嬉しそうに沙知子がそう宣言すると、アパートの住人たちは勢いよくガラスコップをあげ、カチンと音を立てて合わせた。

「今日は私と成田さんで作りました。あ、お寿司は出前ですが」
「いや、めっちゃ美味しいよ。これ!」

 田中とアスランがはしゃいで言う。みな、テーブルの前に座り、賑やかに宴を囲んでいた。

「昨日、バイト大丈夫だった?」

 さっきトーゴーと病院から戻ってきたばかりのアスランが田中に尋ねた。昨日はアスランが風見と一緒にシフトに入っていたのだ。

「大丈夫だよ。我らが野々宮さんがちゃんとカバーしてくれたから」
「なるほど、それなら大丈夫だな」

 と、何故かトーゴーが応じる。田中はなんとなく二人の距離がまた近づいたような気がしていた。
 ま、敵に潜入して王子様を奪還したんだから、当たり前か。物語なら、キスして終わりだよな、なんて思っていた。まさか、現実にそうなったとは知る由もなかったが。


「あ、これ、恥ずかしいから見ないでくださいよっ」

 大貫が悶絶している。大型テレビからは、昨夜の記者会見の模様が映し出されていた。

「えー、何度見ても感動します。『昭和荘のみんなに伝えたい』ってとこ」

 などと沙知子は悪乗りしていた。


 宴もたけなわ、みな十分にお酒が回った頃。ミレンの姿が見えないことに気付いた成田は、そっと宴会から抜け出し屋上に向かった。

「やっぱりここにいらしたんですね」

 ミレンは誘拐事件の後始末のため、今朝まで大使館にいた。戻ってきたのは昼過ぎだ。

「ああ、成田さん、どうかしましたか?」
「いえ……ちょっと、お話したいことが」

 成田はミレンがもうここを去ることがわかっていた。
 ミレンがアスランと同じラメリア国人で、ジョルジュ皇太子の部下だったのは驚いたしショックだった。けれど、だからこそ、彼の日本での任務が終了したと想像するのは容易かった。

「もう、帰国されるんですね」
「ん? そうですね。それは、アスランやトーゴーも同じです」
「寂しくなりますね」

 成田は、淡々と、けれど、心からそう思っていることを伝えた。

「僕も寂しいです。外国での任務は今までもありましたが、ここほど楽しく、離れがたいと思う国はなかったです」

 しんみりと言う。都会の空は明るすぎて夜空の星もまばら。だが、十分に美しかった。

「ミレンさん、私に、自分には好きな人がいるっておっしゃってましたよね」
「え? あ、はい。覚えてましたか」

 照れくさそうにミレンは言う。実は今、仲良さそうにするアスランとトーゴーを見るのが辛くて、こうして屋上にいるのだ。

「人を好きになれない私が言うのもなんですけれど……」
「はい?」
「一度は、伝えた方がいいんじゃないかって思うんです」
「え……」

 なにを言い出すのか、驚いてミレンは成田の方を向いた。

「本音をぶつけないと。前に進めない。そう思うんです。私も……そう思って辞職願を出しました。まあもちろん、同じじゃあないと思いますけど」

 ふふっと成田は自虐的に笑った。

「ああ。そうか。そうかもしれませんね」

 ミレンは成田が自分の心内を知ったのだとわかった。トーゴーを好きなこと、気付いていてそう言うのだ。

 ――――そうですね。いつまでも、このままではいけないのかもしれない。

「あ、流れ星ですよ! 凄い、こんな都会でも見れるのね」

 成田が指を指して叫ぶ。ミレンもその流れ星が消えていくのを見届けた。

 ――――僕の恋心も、最後を見届ける時が来たのかもしれませんね。

 ミレンは夜空に向かって大きく伸びをする。なんだか、凄く気持ちいい。夜空を独り占めしたような気分になった。



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