追放されたお姫様はおとぎ話のごとく優しい少年に救われたので恩返しします。

進藤 樹

文字の大きさ
7 / 57
浦島一家の末裔

「乙姫第二王女? 乙姫って、あの乙姫か……?」

しおりを挟む
 上った先に飲食店があって、奥に進めば住宅地だ。慶汰はすぐそばの細い路地に身を潜めた。
 突然、和装少女が出現する。透明化を解いたのだろう。慶汰の手足や服も見えるようになっている。

「さて、あなた。ウラシマケータとか言ったわね。どういう了見か聞こうじゃないの」

 眉を顰めた少女に鉄扇を突きつけられ、慶汰はやっぱこうなるんだな、と苦笑しながら答えた。

「いや、あのままじゃまずいと思って……」

 主にナンパ男たちの命と、周辺の人たちの精神面が……とは、心の中だけで付け足した言葉だ。
 呆れたように溜息をついた彼女は、鉄扇を袖の中にしまった。

「でもまあ、正直面倒な状況だったし、感謝するわ。ありがと」

 拍子抜けした気分で「どういたしまして」と答えると、また少女の目が細くなる。

「なによ?」
「いや、自分でもなにがなんだか……」
「まあいいわ、一つ聞かせて。いったいウラシマって何人いるのよ?」
「はい?」
「だから名前よ。あたしはウラシマって一族の末裔に用があるの。なのにあなたはおろかさっきの男まで、これで五人目よ。いったい何人いるわけ?」

 妙な会話の流れに引っかかりを覚えつつ、慶汰は一応素直に教える。

「えっと、姓が浦島の人は、国内で百万人強って聞いてるけど。たしか、多い苗字ランキングトップテンには入ってたはず」

 九位か八位だったはずだ。慶汰の感覚で言えば、小林、中村、山本、加藤の姓を持つ人と同じくらいいるわけだ。

「はぁ……っ!? そんなにいるの!?」
「そういうアーちゃんは、いったい何者なのさ」

 少女は目を泳がせる。

「お、乙姫第二王女よ」
〈『元』をつけなきゃ〉

 即座に幼き少年を思わせる電子音声が割り込んできて、王女を名乗った少女は自身の右手を睨みつけた。

「余計なことは言わないでよろしい」
「乙姫第二王女? 乙姫って、あの乙姫か……?」

 慶汰の声が上擦る。妖精や魔法のようなファンタジックな存在が実在するかもしれないというような期待と、幽霊や呪いのような存在してほしくないオカルトが実証されてしまうんじゃないかというような恐怖が入り交じった緊張が、慶汰の顔を強張らせる。
 一方で、少女はどうも不満そうに眉を落としながら答えた。

「乙姫陛下はあたしの母上の肩書きであって、あたしはその次女だから乙姫第二王女。というか、母上のことを呼ぶ時はせめて様をつけなさい様を。不敬よ」

 慶汰の全身に鳥肌が立った。

「え、ちょっと待って……じゃあまさか……浦島太郎は……竜宮城は――」

 亀を助け竜宮城へ行って帰ってきた浦島太郎という人物は、歴史上に実在する。それは義務教育として誰もが習う。だがその内容全てを信じるかどうかとなれば、話は別だ。鎌倉幕府の創設年が昔の年表と今の年表で違うように、誰もが史実だと信じても真実だとは限らない。

「あら、てっきり風化して歴史の墓に埋葬されたとばかり思っていたけれど……知っている人はいるものね。これは重畳」

 改めて慶汰は、アーちゃんこと乙姫第二王女を名乗る女の子を見る。
 高級そうな木の下駄を履いて、小柄な身体を青い着物で包み、濃い青の帯と金の帯紐で締めて、水色の羽織を身に纏い、綿のような白いストールを、ふわふわと頭上に浮かせている。この真夏にそんな格好をして汗のひとつもかいていないことも含め、消える、飛べる、と異質な存在だ。

「ケータ、と言ったかしら」

 竜宮城のお姫様が、真剣な顔つきで慶汰を呼ぶ。

「このあと時間ある? よかったら、色々と話を聞かせてほしいのだけれど」

 慶汰としても、彼女の話には興味がある。……だが、予定を忘れてはいけない。

「ごめん、今日は予定があるんだ」
「そう……残念だわ」

 せっかく知り合えたのだからと、慶汰は明日また会えないかと提案するつもりだったのだが……それより早く、王女様が振り袖から鉄扇を引き抜く。

「そういうことなら悪いけど、またあたしたちのことは忘れてもらうわね」
「え、ちょ!?」

 ぱちん。視界が明滅すると同時に、またしても彼女の姿が消失する。
 海での時もそうだったが、喰らった直後に綺麗さっぱり忘れてしまうわけではないらしい。
 ならば、と慶汰は待ち合わせ場所まで足を急がせた。忘れる前に父に伝えて、忘れた自分にその話をしてもらえば、思い出せるはずだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

処理中です...