15 / 57
たまてばこのポテンシャル
「それが、玉手箱ってことか!」
しおりを挟む
「じゃ、そのお姉さんも連れてってあげる。それならどう?」
「粘るなあ」
彼女は玉手箱がなければ帰れないのだ。事情を思えば、無理もないだろう。
……が、それでも、慶汰は首を縦に振れなかった。
「姉さんが、さ。交通事故で、意識不明の重体なんだ。いつ、生命活動が止まるかもわからない。俺にできることは、毎日声をかけに行くことだけ」
アーロドロップは目を丸くした。
言わなければよかった、と慶汰は後悔したが、どうも彼女の様子が変だ。デリケートな重い話を聞いて気まずくなった風ではない。なにか、真剣に考え事をしているような雰囲気だ。
「ねえ、慶汰。期待しないで聞いてほしいの」
すかさず、慶汰の足を治してくれた魔法が脳裏によぎる。
「まさか、姉さんを治せるとでも言う気か……!?」
身体が勝手に立ち上がっていた。右足はもう、微塵の違和感も残っていない。
「さすがにあたし個人の治癒術では無理ね。けど、もしかしたら――」
「なにか手立てがあるのか!?」
テーブルに手をつき迫る慶汰の肩を、アーロドロップはやんわりと押し返した。
「……まったく、仕方ないわね。でも焦らないの。大切な話なら、なおさらよ」
慶汰は椅子に座り直した。だが、すぐには落ち着けない。
「結論から言ってくれ」
アーロドロップの瞼が呆れたように半分下りる。
「焦るなって言ったでしょ、もう……。まあいいわ、じゃあ一言で言ってあげる。――お姉さんを救える、かもしれないわ」
「本当か……!?」
「保証はできないけど、慶汰はさっきこう言ったわね――若い男がおかしな箱を開けたら一瞬で老人の死体になった。極論、浦島太郎の発言がすべて嘘だとしても、この一点だけは揺るがない、って」
アーロドロップは熱のこもった笑顔を浮かべた。
「どういうことだ……? 何が言いたい……?」
「前提として、龍脈エネルギーの仕事の強さは、龍脈の量に比例するの。そして龍脈術とは、そんな龍脈エネルギーを、何にどう作用させるのかを定めることなの。そうでなければ、龍脈エネルギーは風や熱などに変換されて、霧散する。それはいい?」
「お、おう」
「二十歳前後の若い男が一瞬で何十歳も老化した……その原因は龍脈術の仕業としか考えられないわ。けれど発動するためには膨大な龍脈が必要よ」
「でも、地上に龍脈なんて流れてこないんだろ?」
「その通り。とてもじゃないけど、実現は不可能よ。でもあなたの言うことを信じるならば、それが遙か昔に現実で起きた。じゃあ、それを起こすための龍脈と術式は、いったいどこにあったのかしらね」
「それが、玉手箱ってことか!」
アーロドロップは、曖昧に頷く。
「気になるのは、当時の乙姫上皇陛下がどうしてそんな術式を玉手箱に仕込んだのかっていう動機についてなんだけど……」
「動機がなんであれ、浦島太郎が老化した事実は変わらない、よな?」
「まあそうね。そこは今考えても仕方ない、か……」
アーロドロップはそう呟いて、大きく頷いた。
「とにかく、大量の龍脈を、地上に持ち出せる手段がある。そして人を急激に老けさせる術を行使できた。なら、術式部分を改変できれば、慶汰のお姉さんを救えるかもしれないわ」
慶汰は胸を押さえた。鼓動が高鳴る。
奇跡を信じて待つことしかできなかった現状を打破できるかもしれない可能性が、まさか自宅に眠っていたとは。
「で、できるのか、本当に……そんなことが?」
アーロドロップが、自信に満ちた微笑みを浮かべる。
「あたし、発明王女だもの」
〈元だけどね!〉
「お黙りなさい!」
人差し指を叱りつけて、彼女はコホンと咳払い。
「とにかく、慶汰が信じてくれるなら、あたしが奇跡を起こしてあげる。ただし、あくまで仮説が正しければ、よ」
とても、魅力的な話だ。
アーロドロップに玉手箱を渡せば、海来が救われるかもしれない。なら、その可能性に賭けてみたい。
「その仮説が正しいと証明するには、どうすればいい?」
「玉手箱を見れば、たぶんわかると思う。モルネアには龍脈保有量の計測機能があるから」
〈任せて~〉
「そういうことなら、すぐに現物を見せてやる……!」
慶汰は焦ったように会計を済ませると、アーロドロップの手を取って、喫茶竜宮城をあとにする。
「ちょ、お、落ち着いてってば!」
慌てながらも、アーロドロップは鉄扇を取り出し、店員や館内スタッフに向けていく。次々上がる短い戸惑いの声。
建物を出たところで、アーロドロップがほっと息を吐いた。どうやら、記憶麻酔術をかけ損ねた相手はいないようだ。
「粘るなあ」
彼女は玉手箱がなければ帰れないのだ。事情を思えば、無理もないだろう。
……が、それでも、慶汰は首を縦に振れなかった。
「姉さんが、さ。交通事故で、意識不明の重体なんだ。いつ、生命活動が止まるかもわからない。俺にできることは、毎日声をかけに行くことだけ」
アーロドロップは目を丸くした。
言わなければよかった、と慶汰は後悔したが、どうも彼女の様子が変だ。デリケートな重い話を聞いて気まずくなった風ではない。なにか、真剣に考え事をしているような雰囲気だ。
「ねえ、慶汰。期待しないで聞いてほしいの」
すかさず、慶汰の足を治してくれた魔法が脳裏によぎる。
「まさか、姉さんを治せるとでも言う気か……!?」
身体が勝手に立ち上がっていた。右足はもう、微塵の違和感も残っていない。
「さすがにあたし個人の治癒術では無理ね。けど、もしかしたら――」
「なにか手立てがあるのか!?」
テーブルに手をつき迫る慶汰の肩を、アーロドロップはやんわりと押し返した。
「……まったく、仕方ないわね。でも焦らないの。大切な話なら、なおさらよ」
慶汰は椅子に座り直した。だが、すぐには落ち着けない。
「結論から言ってくれ」
アーロドロップの瞼が呆れたように半分下りる。
「焦るなって言ったでしょ、もう……。まあいいわ、じゃあ一言で言ってあげる。――お姉さんを救える、かもしれないわ」
「本当か……!?」
「保証はできないけど、慶汰はさっきこう言ったわね――若い男がおかしな箱を開けたら一瞬で老人の死体になった。極論、浦島太郎の発言がすべて嘘だとしても、この一点だけは揺るがない、って」
アーロドロップは熱のこもった笑顔を浮かべた。
「どういうことだ……? 何が言いたい……?」
「前提として、龍脈エネルギーの仕事の強さは、龍脈の量に比例するの。そして龍脈術とは、そんな龍脈エネルギーを、何にどう作用させるのかを定めることなの。そうでなければ、龍脈エネルギーは風や熱などに変換されて、霧散する。それはいい?」
「お、おう」
「二十歳前後の若い男が一瞬で何十歳も老化した……その原因は龍脈術の仕業としか考えられないわ。けれど発動するためには膨大な龍脈が必要よ」
「でも、地上に龍脈なんて流れてこないんだろ?」
「その通り。とてもじゃないけど、実現は不可能よ。でもあなたの言うことを信じるならば、それが遙か昔に現実で起きた。じゃあ、それを起こすための龍脈と術式は、いったいどこにあったのかしらね」
「それが、玉手箱ってことか!」
アーロドロップは、曖昧に頷く。
「気になるのは、当時の乙姫上皇陛下がどうしてそんな術式を玉手箱に仕込んだのかっていう動機についてなんだけど……」
「動機がなんであれ、浦島太郎が老化した事実は変わらない、よな?」
「まあそうね。そこは今考えても仕方ない、か……」
アーロドロップはそう呟いて、大きく頷いた。
「とにかく、大量の龍脈を、地上に持ち出せる手段がある。そして人を急激に老けさせる術を行使できた。なら、術式部分を改変できれば、慶汰のお姉さんを救えるかもしれないわ」
慶汰は胸を押さえた。鼓動が高鳴る。
奇跡を信じて待つことしかできなかった現状を打破できるかもしれない可能性が、まさか自宅に眠っていたとは。
「で、できるのか、本当に……そんなことが?」
アーロドロップが、自信に満ちた微笑みを浮かべる。
「あたし、発明王女だもの」
〈元だけどね!〉
「お黙りなさい!」
人差し指を叱りつけて、彼女はコホンと咳払い。
「とにかく、慶汰が信じてくれるなら、あたしが奇跡を起こしてあげる。ただし、あくまで仮説が正しければ、よ」
とても、魅力的な話だ。
アーロドロップに玉手箱を渡せば、海来が救われるかもしれない。なら、その可能性に賭けてみたい。
「その仮説が正しいと証明するには、どうすればいい?」
「玉手箱を見れば、たぶんわかると思う。モルネアには龍脈保有量の計測機能があるから」
〈任せて~〉
「そういうことなら、すぐに現物を見せてやる……!」
慶汰は焦ったように会計を済ませると、アーロドロップの手を取って、喫茶竜宮城をあとにする。
「ちょ、お、落ち着いてってば!」
慌てながらも、アーロドロップは鉄扇を取り出し、店員や館内スタッフに向けていく。次々上がる短い戸惑いの声。
建物を出たところで、アーロドロップがほっと息を吐いた。どうやら、記憶麻酔術をかけ損ねた相手はいないようだ。
10
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる