追放されたお姫様はおとぎ話のごとく優しい少年に救われたので恩返しします。

進藤 樹

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たまてばこのポテンシャル

「ふふん。これでおあいこね」

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 浦島太郎資料館から電車で鎌倉駅まで帰ってきた慶汰は、駅の駐輪場に駐めていた自転車を回収し、手で押して歩き出した。そばには姿を消したアーロドロップがいて、地面に目をやればそれらしき影がわかる。

「あ、忘れてた」
「どうしたの?」

 横にいるとわかっているとはいえ、姿が見えない人から話しかけられるのはどうも違和感が強い。

「いや、母さんは今日、夕方までパートしてるんだった。父さんも仕事だし……すぐには倉庫に入れない」
「もしかして、鍵がないってこと?」
「いや、ナンバーロックだから番号がわかれば……勘で当てるしかねぇか」
〈勘って……何桁かわからないけど、途方もない時間がかかるんじゃないの~?〉
「それが、そういうわけにもいかないし、そういうわけでもないんだ」
「どういうわけよ?」

 元々、まだ慶汰が小学生だった頃は、シリンダーと鍵のタイプだったのだ。ただ、海来と二人で勝手に倉庫の中で遊んでいたら鍵を紛失してしまい、その一件以降、指紋認証と四桁のシリアルナンバーで解錠するタイプの電子キーに換えられた。

「このナンバーロック、二回間違えると警備会社に防犯カメラの映像が飛んで、場合によっては警備員が駆けつけるシステムになってるんだ。指紋認証は俺の指紋も登録してあるからそっちは大丈夫だけど、シリアルナンバーの方がな……まあ間違えても自宅の倉庫だし逮捕されることはないと思うけど、だからって迷惑かけるのはさすがに……まあ賭けてみてもいいんだが」

 慶汰の声がぼそぼそと小さくなっていく。

「番号、教えてもらってないの?」
「ああ。悪戯した罰として、番号は教えないって言われてそれきり」
「じゃあどうしようもないじゃないの……」
「いや、それがそうでもなくてさ……当時、まだ小学生だった俺がどうしてもってせがんだら、父さんが問題を出してきたんだ」
「問題?」
「解除番号は、父さんと母さんの結婚記念日らしい。で、俺たち家族四人の誕生日に含まれる数字のうち、重複しない四つの数字の組み合わせだって言われたよ」
「あら、なかなか家族想いなお父様じゃない」
「……まぁな」

 アーロドロップの声音が、意地悪げなトーンに変わる。

「それを知ってて今、勘で当てようとしているってことは、慶汰はご両親の結婚記念日に心当たりがないわけね」
「悪かったな。クイズにされた以上、母さんに聞くのもずるい気がして、そのまま聞かずじまいだったし。ただ、結婚記念日は誰の誕生月とも被らないって話だ」
「へぇ」
「四つの数字以外は二つずつ揃ってるから、使う四つの数字ははっきりしてるんだけど」
「ふぅん? ちなみに、慶汰のご家族の誕生日で、月や日付の数字が一緒ってことはあるの?」
「父さんが五月一七日生まれで、母さんが五月八日生まれだから、五が被ってるな。他は全部違う数字だ」
「……となると、慶汰の誕生日って――」

 ふいに慶汰の耳元に柔らかく温かい吐息が届いた。急なことでもあったが、それ以上に囁かれた日付が的中していて、慶汰は驚愕する。

「はぁ!? まだ両親の誕生日しか教えてないのに、なんで……!?」
「ふふん。これでおあいこね」

 アーロドロップが得意げな声で言う。どうやら、浦島太郎資料館に行く途中で慶汰が彼女の事情を言い当てたことの意趣返しのつもりらしい。
 慶汰は素直に感心した。

「よくわかったな」
「知らなくてもわかるわよ。あたし、今日あなたと再会する前、こっちの世界の年間カレンダーを見たもの」
〈ねぇアロップ、今勘で言ったでしょ〉
「残念、確信あったわよ?」
〈嘘だ~。組み合わせもっと色々あったじゃん〉

 姿を消したまま、アーロドロップは優しく諭すように語りかけた。

「モルネア。あなたは居合わせた出来事を余すことなく記録することができるし、その記録から様々な情報を引き出して組み合わせることができるわ。けれど、いつどの記録を使うべきかについては、まだまだ成長段階みたいね」
〈え~?〉
「モルネアのことだから、結びついていないだけだと思うの」
〈違うの? わかんないよぉ~!〉
「慶汰と初めて出会った時――釣り針をあたしたちにぶつけてくる直前、なんて言っていたかしら」

 すると、モルネアの音声が、幼き少年のそれから慶汰そっくりの声に切り替わった。

〈……奇跡なんて、起こせるわけないだろ。今日が誕生日だったんだぞ〉
「うおっ、聞こえてたのかよ!? つーか俺どんだけ恥ずかしいこと言ってたんだぁ……!」

 珍しくセンチメンタルな時に発したポエムチックな発言がピンポイントにプレイバックされて、慶汰は顔を逸らさずにはいられない。

「ほら、誕生日って言ってるじゃない」
〈でも、誰の誕生日の話なのか不明だよ?〉
「あの時はね。でも今考えればお姉さんの誕生日よ。まあこの辺は感受性の問題かしら」
〈感受性って……難しいよー!〉
「難しいって言える時点で、十分すごいと思うけどな……」

 慶汰の呟きに、アーロドロップはどこか憂うような声音で答えた。

「正直、まだまだ学んだ会話パターンに即した反応としか言えないわ。いつか、本当の意味で心を持ってくれたら嬉しいんだけど、ね……まだちょっと難しいか」
〈でさ~、結局アロップはどうやって慶汰の誕生日がわかったの?〉

 慶汰もそれは気になっていたので、コクコクと大きく頷く。
 先ほどの母親のような雰囲気はどこへやら、アーロドロップは年相応に元気いっぱいな声で調子よく解説した。

「簡単よ。説明する前に、確定でわかる情報をまとめましょうか」
〈慶汰を除く家族の誕生日は、両親の五月一七日と五月八日。アロップはお姉さんの誕生日、七月二〇日も知っていたから、この時点で『5』と『7』が結婚記念日の数字候補から省かれて、『0』『1』『2』『8』の四つが残ったね~〉
「次に、慶汰の電子キーの説明から、結婚記念日の選択肢は三択以上あることがわかるわ」
〈なんで?〉
「一回は間違えられるけど二回目で間違えるとアウトって状況で、確実に当てられないけど勘で勝負する分にはそれほど分が悪くないって雰囲気、感じられなかった?」
〈雰囲気なんてわかりません~〉
「そこもモルネアの今後の学習課題ね。次、『四桁全て違う数字で三つ以上の日付を作れる組み合わせ』という条件から、最低でも四人の誕生日に『0』と『1』は確実に一度だけ出てくるわ。かつ『2』か『3』のどちらかも必要になるの」

 たしかに、と慶汰は頷いた。

 例えば、使う四つの数字が『0123』であれば、そのまま一月二三日、『0213』で二月一三日……というように、三月一二日、三月二一日、十月二三日、一二月三日、一二月三〇日といくつもの候補日が作れる。
 これが『0189』だと、八月一九日と九月一八日の二択しか作れなくなるのだ。そのように考えていくと、三択以上の日付候補が出せる四つの数字の組み合わせは、自ずと限られてくる。

〈じゃあ、まだ慶汰の誕生日が出ていないのに条件に適した候補になっちゃったわけだけど?〉
「ええ。でも、四人の誕生日において、両親の五月以外同じ数字はないと慶汰が言った。すると慶汰の誕生日が『四月四日』や『九月九日』のような打ち消しあうだけの日付になる可能性はないわ」
〈じゃあ『0128』のままってわけにはいかないね~〉
「そうなると、その四つの数字からどれかを打ち消して、別の数字『X』を増やす必要があるわけだけど、そこはどう考える?」
〈まず、『0』と『1』を打ち消しちゃダメ~。そして親の誕生日に五月八日があるから、八月X日もX月八日も使えない。つまり『8』だけを打ち消すことはできないねー。一方で、『2』は二月X日、X月二日の使い方ができるー。すると使う四つの数字は『018X』……さっきアロップが言ったように『2』か『3』のどちらかは入っていないと結婚記念日候補が三択にならないから、使う数字は『0138』になるわけか~〉
「その通り。これでもうモルネアも、慶汰の誕生日を計算できるわね」
〈うん! あと必要なのは、打ち消し用の『2』と不足している『3』を使った日付が慶汰の誕生日! そして三月は結婚記念日の選択肢として残す必要があるから、二月三日しか可能性はありえない!〉
「な、なるほどな……」

 慶汰は舌を巻いた。モルネアはまだ、データとしてカレンダーを一覧表にして参照できるかもしれないが、アーロドロップはそれを自らの脳みそ一つで思い描いたのだ。

「ふふん! 慶汰、さっきみたいに人に話す時は気をつけなさいよ? 簡単にここまでわかっちゃうから」

 楽しそうに言われた。姿を消しているため顔は見えないが、きっと得意げな顔をしているのだろう。

「……普通それができないってわかってて言ってるだろ。つか、リスク云々の話をするなら、記念日で暗証番号を設定している親父の危機管理意識もよくないと思うんだが……」

 そうこう話しているうちに、浦島家が見えてきた。
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