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地上最後のパーティー
「初耳よ……! 新種の生き物で悪かったわね……!」
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慶汰が元いたテーブルに戻ると、きっちりとブラックスーツを着こなした五十代くらいの男性と目が合う。
「こんばんは。君はたしか、浦島慶汰君だね」
日に焼けた肌と恰幅のいい体格で、いつもピンと胸を張った姿勢を崩さないため、少し圧のある相手だ。だが、慶汰にとっては子供の頃からよくしてくれているおじさんみたいな印象が強い。
「はい、お久しぶりです。神保さんはたしか、海上保安庁の……」
アーロドロップにさり気なく説明するためにも、慶汰はそこで言葉を区切った。
「変わらず一等海上保安監だよ。今日はお姉さんは来ていないのかい? たしか、今年で大学二年生、だったかな」
「……姉は今、半年前に事故で意識不明のまま入院中でして」
笑顔を崩さないよう努めて伝える。神保は一瞬だけ目を見開いて喉を重たく鳴らしたが、すぐに冷静さを取り戻したようだ。
「そうか、申し訳ない。あの元気な姿をまた見られることを願うよ」
「ありがとうございます。それで、お仕事の方は順調ですか?」
慶汰の脳裏には、海来の振る舞いが強くイメージできていた。相手の近況を伺い、適度に相槌を打つ――その言葉選びやタイミングの塩梅がうまく想像できないのだが、今の話題の振り方はよかったと、慶汰自身そう思う。
「ああ。それが最近、奇妙なことがあってね。三日前のことなんだが」
「三日前……というと、七月二〇日ですか」
海来の誕生日だ。
「正体不明の物体が、太平洋沖から本土へ接近してきてね」
「そんな。正体不明って……外国の潜水艦とかですか?」
「いや、それが対応した保安官の言葉を信じるなら、人間大のサイズ感らしいんだ。ただし速度は六〇ノット。イメージしにくいかもしれないけれど、スピード感で言えば魚雷みたいなものさ。……まあそのスピードのおかげで検知できたんだが」
「七月二〇日の太平洋沖から魚雷のスピードで接近する人型……」
慶汰の焦点が遠くなる。魚雷のスピードがどれくらい速いかは慶汰も知らないが、心当たりは一つしかない。
案の定、慶汰のスーツの背中が、ぎゅっと握られた。振り向かずともアーロドロップの手だとわかる。小刻みに震えているところからして、彼女も自分のことではないかと自覚したのだろう。
「緊急特定班を作って捜索中なんだが、不甲斐ないことに今も見つかってないんだ。今では新種の生き物なんじゃないかという説が有力でね。まあそんなのんきなことを言っていられる場合でもないんだけど……今のところ関連していそうな事件も騒ぎも起きていないから、なんともね」
神保は丈夫そうな顎を撫でて、好奇心に満ちた目で言っていた。
「なるほど……専門的な話はよくわかりませんが、ある意味新種の生き物ですよ、きっと」
海上保安庁を大騒ぎさせている原因が真後ろにいるので、白々しい返事になってしまったが、神保は特に気にするそぶりを見せなかった。
やがて神保が他の人と挨拶をしにテーブルを離れたタイミングで、慶汰も作戦の最終確認を行う。といっても、トイレに行くフリをして廊下の状況チェックをするくらいだ。
「なあアロップ。神保さんはああ言ってたけど、海保にソナー探知されていたことは気づいていたのか?」
「初耳よ……! 新種の生き物で悪かったわね……!」
姿を見せたアーロドロップは、青ざめた顔で冷や汗をたくさんかいていた。
「ハハ……まあ今となっては、無事に出会えてなによりだけどな」
いつの間にかすっかり美しい夜色に染まった空が窓の外に見える。ここを脱出経路にしようとこっそり鍵を開け、アーロドロップが再び姿を消したのを確認して、部屋に戻った。
それから食事を堪能したり、玉手箱付近でゲストと会話を弾ませている港鷹の様子を窺ったりして、待つことしばらく。
いよいよ、作戦の時が訪れた。
「こんばんは。君はたしか、浦島慶汰君だね」
日に焼けた肌と恰幅のいい体格で、いつもピンと胸を張った姿勢を崩さないため、少し圧のある相手だ。だが、慶汰にとっては子供の頃からよくしてくれているおじさんみたいな印象が強い。
「はい、お久しぶりです。神保さんはたしか、海上保安庁の……」
アーロドロップにさり気なく説明するためにも、慶汰はそこで言葉を区切った。
「変わらず一等海上保安監だよ。今日はお姉さんは来ていないのかい? たしか、今年で大学二年生、だったかな」
「……姉は今、半年前に事故で意識不明のまま入院中でして」
笑顔を崩さないよう努めて伝える。神保は一瞬だけ目を見開いて喉を重たく鳴らしたが、すぐに冷静さを取り戻したようだ。
「そうか、申し訳ない。あの元気な姿をまた見られることを願うよ」
「ありがとうございます。それで、お仕事の方は順調ですか?」
慶汰の脳裏には、海来の振る舞いが強くイメージできていた。相手の近況を伺い、適度に相槌を打つ――その言葉選びやタイミングの塩梅がうまく想像できないのだが、今の話題の振り方はよかったと、慶汰自身そう思う。
「ああ。それが最近、奇妙なことがあってね。三日前のことなんだが」
「三日前……というと、七月二〇日ですか」
海来の誕生日だ。
「正体不明の物体が、太平洋沖から本土へ接近してきてね」
「そんな。正体不明って……外国の潜水艦とかですか?」
「いや、それが対応した保安官の言葉を信じるなら、人間大のサイズ感らしいんだ。ただし速度は六〇ノット。イメージしにくいかもしれないけれど、スピード感で言えば魚雷みたいなものさ。……まあそのスピードのおかげで検知できたんだが」
「七月二〇日の太平洋沖から魚雷のスピードで接近する人型……」
慶汰の焦点が遠くなる。魚雷のスピードがどれくらい速いかは慶汰も知らないが、心当たりは一つしかない。
案の定、慶汰のスーツの背中が、ぎゅっと握られた。振り向かずともアーロドロップの手だとわかる。小刻みに震えているところからして、彼女も自分のことではないかと自覚したのだろう。
「緊急特定班を作って捜索中なんだが、不甲斐ないことに今も見つかってないんだ。今では新種の生き物なんじゃないかという説が有力でね。まあそんなのんきなことを言っていられる場合でもないんだけど……今のところ関連していそうな事件も騒ぎも起きていないから、なんともね」
神保は丈夫そうな顎を撫でて、好奇心に満ちた目で言っていた。
「なるほど……専門的な話はよくわかりませんが、ある意味新種の生き物ですよ、きっと」
海上保安庁を大騒ぎさせている原因が真後ろにいるので、白々しい返事になってしまったが、神保は特に気にするそぶりを見せなかった。
やがて神保が他の人と挨拶をしにテーブルを離れたタイミングで、慶汰も作戦の最終確認を行う。といっても、トイレに行くフリをして廊下の状況チェックをするくらいだ。
「なあアロップ。神保さんはああ言ってたけど、海保にソナー探知されていたことは気づいていたのか?」
「初耳よ……! 新種の生き物で悪かったわね……!」
姿を見せたアーロドロップは、青ざめた顔で冷や汗をたくさんかいていた。
「ハハ……まあ今となっては、無事に出会えてなによりだけどな」
いつの間にかすっかり美しい夜色に染まった空が窓の外に見える。ここを脱出経路にしようとこっそり鍵を開け、アーロドロップが再び姿を消したのを確認して、部屋に戻った。
それから食事を堪能したり、玉手箱付近でゲストと会話を弾ませている港鷹の様子を窺ったりして、待つことしばらく。
いよいよ、作戦の時が訪れた。
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