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いざりゅうぐうじょうへ!
「今回も返り討ちにしてあげるッ!」
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辺り一面、大海原。
空には白い雲が浮かび、じりじりと朝日が上昇している。
少々シュールな絵面だが、慶汰は今、玉手箱を抱えた格好で、海面を撫でるように飛んでいた。目に見えない龍脈の薄い膜が慶汰を包み、服も肌も髪も、まったく濡れずに海水を弾いている。
いつだったか高速道路を走っていた時、助手席の窓ガラスに顔を貼りつけ、路面を見下ろした感覚――それよりも速く、海面が視界を過ぎ去っていく。
海上保安庁の神保曰く、来る時のアーロドロップは六〇ノットの速度が出ていたそうだが、それは時速に置き換えるとおよそ百十キロである。高速道路を走る車より、なお速い。
少し前を、やはり濡れていないアーロドロップが飛行している。
どれだけ時間が経ったかもわからないが、少なくとも一晩丸々経過して、今ではすっかり朝の雰囲気だ。パーティーのビンゴ大会が夜七時スタートだったから、もう一〇時間は飛行しているとみていいかもしれない。
大きな音で腹が鳴って、慶汰は苦笑した。竜宮城から鎌倉の埠頭まで移動したアーロドロップが、あれだけお腹を鳴らすのも当然だろう。
「なぁー……! 今さらだけどー、竜宮城の場所、わかるのかー!?」
「あたしたちはねー! 龍脈の気配がわかるのー! さすがに故郷となれば、地上からでも方角と大まかな距離が感じ取れるわー!」
魔法使いや霊能力者みたいなセリフだった。あるいは帰巣本能のようなものなのかもしれない。それはともかく。
「それでー! あとどれくらい進むんだー!?」
「そろそろ潜るわ~! 玉手箱開いて、空気抜けるようにしておいてー!」
「息を止める必要は~!?」
「あるわけないでしょ~! 遊泳術に切り替えるから、呼吸も水圧も大丈夫~!」
白波をかき分け音を立て、海中の世界へ!
「おお~!」
小魚の群れが美しい螺旋を描いて、俺たちを囲い、通り過ぎていく。
感動しながら見送っていると、小魚の群れに大きな口を開けた巨大な鯨が突っ込んだ。
「す、すげぇ~!」
慶汰も見たことのない大自然、太平洋の日常。
そこには当然、海の脅威もいる。
下から俺たち目掛けて、四メートル以上もあるごつい体格の白い死神――ホホジロザメが一直線に詰めてくる!
「アロップ!? やばいんじゃないか!?」
「慶汰~! 玉手箱、放さないでよね~!」
アーロドロップは楽しそうに言った。
「リベンジマッチ、受けて立つわ!」
ホホジロザメの左の目元には、一筋の傷が走っている。
「りべ――!?」
ぎょっとして目を剥くと、アーロドロップは袖口から鉄扇を出して笑った。
「今回も返り討ちにしてあげるッ!」
「今回って……来る時もやり合ってたのかよ……」
慶汰は恐怖より呆れが勝って、肩の力が抜ける。
アーロドロップは一人方向転換。慶汰への遊泳術を維持したまま、巨大なサメと戯れる。
迫る牙に鉄扇を添え、そこを支点に受け流す。舞うように曲線を描いたアロップの軌道は、直後、ジェット噴射したかのようにまっすぐ伸びた。
ホホジロザメを追いかけて、追いついて、併泳する。
身体を捻ってホホジロザメは暴れた。巨体がくねる迫力は圧巻だ。海水を伝って、衝撃の重さが龍脈の膜越しに伝わってくる。
アーロドロップは際どいところで回避行動を取り、煽るように踊っていた。しばらくスリルで遊んだ後、ホホジロザメとのすれ違いざま、尾びれを鉄扇で弾く。
反転したサメが噛みつこうと大口を開いた。鋭い歯は凶悪に並んでいる。それをアーロドロップは間一髪のところで回避し、鉄扇でサメのエラを叩いた。隙も無駄もない動きは、とても優雅だと慶汰は思った。
その一撃が決め手となり、ホホジロザメは尻尾を巻いて逃げていく。慌てふためいて滑稽に思えるほどだ。
「さっ! 寄り道はおしまい! ここから先は、あたしたちの世界よ!」
「お、おう!」
海中でのサメとの戦闘を、鉄扇一本で完勝する。改めて、龍脈術のすごさを思い知ったと同時に、少しサメが不憫にも思った慶汰だった。
空には白い雲が浮かび、じりじりと朝日が上昇している。
少々シュールな絵面だが、慶汰は今、玉手箱を抱えた格好で、海面を撫でるように飛んでいた。目に見えない龍脈の薄い膜が慶汰を包み、服も肌も髪も、まったく濡れずに海水を弾いている。
いつだったか高速道路を走っていた時、助手席の窓ガラスに顔を貼りつけ、路面を見下ろした感覚――それよりも速く、海面が視界を過ぎ去っていく。
海上保安庁の神保曰く、来る時のアーロドロップは六〇ノットの速度が出ていたそうだが、それは時速に置き換えるとおよそ百十キロである。高速道路を走る車より、なお速い。
少し前を、やはり濡れていないアーロドロップが飛行している。
どれだけ時間が経ったかもわからないが、少なくとも一晩丸々経過して、今ではすっかり朝の雰囲気だ。パーティーのビンゴ大会が夜七時スタートだったから、もう一〇時間は飛行しているとみていいかもしれない。
大きな音で腹が鳴って、慶汰は苦笑した。竜宮城から鎌倉の埠頭まで移動したアーロドロップが、あれだけお腹を鳴らすのも当然だろう。
「なぁー……! 今さらだけどー、竜宮城の場所、わかるのかー!?」
「あたしたちはねー! 龍脈の気配がわかるのー! さすがに故郷となれば、地上からでも方角と大まかな距離が感じ取れるわー!」
魔法使いや霊能力者みたいなセリフだった。あるいは帰巣本能のようなものなのかもしれない。それはともかく。
「それでー! あとどれくらい進むんだー!?」
「そろそろ潜るわ~! 玉手箱開いて、空気抜けるようにしておいてー!」
「息を止める必要は~!?」
「あるわけないでしょ~! 遊泳術に切り替えるから、呼吸も水圧も大丈夫~!」
白波をかき分け音を立て、海中の世界へ!
「おお~!」
小魚の群れが美しい螺旋を描いて、俺たちを囲い、通り過ぎていく。
感動しながら見送っていると、小魚の群れに大きな口を開けた巨大な鯨が突っ込んだ。
「す、すげぇ~!」
慶汰も見たことのない大自然、太平洋の日常。
そこには当然、海の脅威もいる。
下から俺たち目掛けて、四メートル以上もあるごつい体格の白い死神――ホホジロザメが一直線に詰めてくる!
「アロップ!? やばいんじゃないか!?」
「慶汰~! 玉手箱、放さないでよね~!」
アーロドロップは楽しそうに言った。
「リベンジマッチ、受けて立つわ!」
ホホジロザメの左の目元には、一筋の傷が走っている。
「りべ――!?」
ぎょっとして目を剥くと、アーロドロップは袖口から鉄扇を出して笑った。
「今回も返り討ちにしてあげるッ!」
「今回って……来る時もやり合ってたのかよ……」
慶汰は恐怖より呆れが勝って、肩の力が抜ける。
アーロドロップは一人方向転換。慶汰への遊泳術を維持したまま、巨大なサメと戯れる。
迫る牙に鉄扇を添え、そこを支点に受け流す。舞うように曲線を描いたアロップの軌道は、直後、ジェット噴射したかのようにまっすぐ伸びた。
ホホジロザメを追いかけて、追いついて、併泳する。
身体を捻ってホホジロザメは暴れた。巨体がくねる迫力は圧巻だ。海水を伝って、衝撃の重さが龍脈の膜越しに伝わってくる。
アーロドロップは際どいところで回避行動を取り、煽るように踊っていた。しばらくスリルで遊んだ後、ホホジロザメとのすれ違いざま、尾びれを鉄扇で弾く。
反転したサメが噛みつこうと大口を開いた。鋭い歯は凶悪に並んでいる。それをアーロドロップは間一髪のところで回避し、鉄扇でサメのエラを叩いた。隙も無駄もない動きは、とても優雅だと慶汰は思った。
その一撃が決め手となり、ホホジロザメは尻尾を巻いて逃げていく。慌てふためいて滑稽に思えるほどだ。
「さっ! 寄り道はおしまい! ここから先は、あたしたちの世界よ!」
「お、おう!」
海中でのサメとの戦闘を、鉄扇一本で完勝する。改めて、龍脈術のすごさを思い知ったと同時に、少しサメが不憫にも思った慶汰だった。
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