追放されたお姫様はおとぎ話のごとく優しい少年に救われたので恩返しします。

進藤 樹

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いざりゅうぐうじょうへ!

「なんか、うまいんだけど不思議な味だな」

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 気づけば、慶汰はいつの間にか眠っていたのだとおぼろげに理解した。
 長い海の旅路は、慶汰の体力を体感以上に削り取っていた。玉手箱を届けるという使命感と、未知の世界への緊張感と、興奮と感動が、疲労感を麻痺させていたのだ。
 その証拠に、一晩眠った今、慶汰は竜宮城突入から、こうしてふかふかの布団に眠っている細かな経緯を、おぼろげにしか思い出せずにいた。
 街の市民から城の人々まで、誰もが和装だったこと。
 王城が、太い鉄骨系の建材で造られていること。
 城の中は青い系統の色合いが基調となっていて、優しく支えられるような雰囲気があったこと。
 城内に入ってすぐ、アーロドロップが紅い髪のメイドと話し終えるのをソファのような椅子に座って待つことになり、それから……記憶がない。

「あら、ごめんなさい。起こしちゃったわね」

 アーロドロップの声を聞いて、慶汰は身体を起こした。いつの間にか、和風の旅館にあるような浴衣を着せられている。
 慶汰は知らない部屋にいた。広い部屋だ。壁にはイカともクラゲとも思える軟体動物が漂う絵画が飾られている。ベッドはセミダブルだろうか、一人で寝るには贅沢な広さと柔らかさがあった。小さな照明器具の乗ったサイドテーブルは磨かれた木材が綺麗な黄緑色をしていて、壁際の同じ材質のテーブルにはスーツ一式が綺麗に畳んで置かれている。窓でもあるのだろうか、壁には青い布が垂れていた。

「アロップ……?」

 慶汰が目を向けると、アーロドロップは引き戸を閉めて、木の椅子に腰を下ろした。見慣れた乙姫羽衣姿で、手には水筒のようなものを持っている。

「おはよう。ここはゲストルームよ。慶汰、昨日椅子に座らせたらそのまま寝ちゃったの。憶えてる?」
「ああ、なんとなく……え、昨日?」

 慶汰は耳を疑った。がっつり寝込んでいたようだ、と髪に触れる。しっかり寝癖の感触があった。
 よりによって寝起きのだらしないところを見られてしまった、と咄嗟に指で髪を梳く慶汰を、アーロドロップが笑顔で見守っている。

「フフ、長旅だったものね。今日は……といってもあと半日もないけど、ゆっくりしていてちょうだい。明日から、色々と忙しいから」
「ええと、玉手箱は?」

 寝起きで意識はぼーっとしているが、腕が筋肉痛とも痺れとも違う違和感を訴えている。それだけ長い間しっかり抱えていたからだろう。

「今、さっそく解析に回しているわ。まあ数日は龍脈チャージだけで検査のしようがなさそうだけど」

 細かいことはわからないが、とにかく紛失したわけではなさそうだとわかって、慶汰は胸をなで下ろした。と同時に、お腹が勢いよく唸り声を上げる。
 あまりの恥ずかしさに、慶汰は耳まで真っ赤にして……今にも笑い出しそうなアーロドロップと目が合った。

「……ぷ」
「……く」

 二人して一気に「あははは!」と大声で笑う。ひとしきり大笑いして、アーロドロップが指の背で自らの目元を拭った。

「そんなことだろうと思って、はいこれ」

 アーロドロップが差し出した水筒を受け取り、慶汰は観察した。五〇〇ミリペットボトル程度のサイズ感で、蓋がコップになっていると思しき形状だ。だが切れ目の下に丸いボタンがひとつある。

「飲み物か?」
「消化しやすいエナジードリンク。寝起きで自覚ないでしょうけど、体力を消耗したまま長いこと寝ていたんだから、いきなり食事をすると胃がムカムカするわよ」
「おお……ありがとう」

 蓋を回そうとするが硬すぎてびくともしない。ボタンを押すと炭酸が抜けるようなプシュッという音がして、今度は蓋が回るようになった。本体は直接口をつけて飲むのに適した突起があるので、慶汰は直接口をつけた。鼻に抜ける香りは爽やかな酸味があるが、舌で感じるのは心地よく冷えた甘みだ。

「なんか、うまいんだけど不思議な味だな」
「疲れているほど甘く感じるようになっているのよ。地上人にも通じるみたいね」

 運動部のクラスメイトが、スポーツドリンクを飲む時にそんなような話をしていたことを思い出す。アーロドロップが普通に地上で食事をしていたからそれほど心配していなかったが、海底世界の生活習慣はそれほど地上と乖離していないようだ。

「それで、モルネアは大丈夫そうなのか?」
「おそらくね。バグって情報が壊れていなければいいんだけど――」

 そうアーロドロップが言ったところで、ドアがノックされた。

「どうぞ」

 返事をしたのはアーロドロップだ。
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